1 賃金(給与)の支払いをデジタル化へ
執筆日時:
最終修正:
筆者:平児
内閣が検討していた“賃金のデジタル払い”の制度化を、2021年度に実現化すると厚生労働省が明言したと時事通信社が伝えている(※)。
※ 時事通信4月5日記事「給与デジタル払い、21年度制度化 具体案提示へ 厚労省方針」
これは、労働基準法第24条に定められた“賃金の現金払い”の原則を否定するものである。連合も、資金移動業者の破たん時の問題、不正利用の可能性、セキュリティの問題があるとして反対している制度である(※)。それを一方的に今年度中に実施するというのであるから、菅政権はこれを強引に推し進めるつもりのようである。
※ 連合WEBサイト「何が問題? 賃金のデジタル払い」
2 賃金のデジタル払いの問題点
賃金のデジタル払いについては、多くの識者や報道機関が問題を指摘している(※)。
※ 日本労働弁護団「資金移動業者の口座への賃金支払の解禁に反対する幹事長声明」、嶋崎量「賃金のデジタル払いは時期尚早」など
指摘されている最大の問題点は、資金移動業者が破たんしたとき、預金保険制度が適用されるものの確定までに時間がかかり、支払いまでに半年程度かかるケースもあることである。これでは貧困層にとっては大打撃である。また、通貨の価値が半年の間に暴落することもあり得るのだ。
さらに、連合が危惧の念を示しているように、ハッキングのおそれなど、セキュリティの問題の不安は拭われない。
そして何よりも、嶋崎弁護士も指摘しているように、労働者側にはデジタル払いの利益などまったくないのである。また、デジタル払いを望んでいる労働者などほとんどいないであろう。
3 政府がデジタル払いを進める理由
これに対し、政府がデジタル払いを進める理由として挙げているのは、マネーロンダリング対策だけと言ってよい(※)。
※ 総務省規制改革推進会議資料「デジタルマネーによる賃金支払いの解禁」、厚生労働省資料「資金移動業者の口座への賃金支払について」など参照。
しかし、これはバカバカしい理由だと平児は思う。そもそもマネーロンダリングが問題になるのは、裏の資金であって、一般の労働者の賃金がマネーロンダリングの対象になることなどあり得ない。しかも、デジタル化は企業に対する強制ではないのだから、問題のある業者はデジタル払いなど採用しないだろう。
4 政府がデジタル化を進める真の理由
政府がデジタル化を進める真の理由は、ひとつには企業の利益である。誰がいつ何に対して“カネ”を払ったかは、企業にとっては貴重な情報なのだ。資金移動業者は民間企業であり、デジタル払いが行われれば、その情報はその資金移動業者が握ることになるのである。これは、広告業者にとって重要な資料である。
さらに、政府がこの情報を管理するようになると、もっと恐ろしいことが起きる。政府は、国民の“カネ”の使い方がすべて把握できてしまうのだ。ある国民が、ある政党や団体にカネを支払えば、それが把握できてしまう。野党の党員のリストや、市民活動を行っている団体のメンバーのリストを政府が入手できてしまうのだ。
また、金に困っている若者に接触して、自衛隊への加入を呼びかけ、自衛隊に加入した若者に政府への忠誠心を叩き込むことも可能になろう。
この国民監視こそが賃金のデジタル払いの真の狙いだと平児は思っている。
5 賃金のデジタル払いに反対しよう
賃金のデジタル払いは、あまり報道されないせいか、SNSでも話題になることは少ないようだ。しかし、これは、国民の行動をすべて政府が把握することになるおそれのある、きわめて危険な制度であると言わざるを得ない。
その問題点を、多くの国民に知って欲しい。そして、政府による賃金のデジタル化の策謀をやめさせよう。