1 相次ぐ保育士の一斉退職
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筆者:平児
全国の保育所で、保育士が一斉に退職するケースが発生している。ここ数年間に報道されたもので目に留まった事例だけでも、かなりの数である。
保育士になったのは、子供の頃からの夢を頑張って実現させたというケースも多いだろう。その保育士が、一斉に退職するのである。異常なことと言わざるを得ない。
- 2018年5月:保育士11人が一斉退職(横浜市鶴見区の認可保育園/園長と主任を含む)
- 2018年10月:保育士18人が一斉退職(世田谷区の企業主導型保育所2か所)
- 2019年12月:保育士18人が一斉退職(浜松市の認可保育園)
- 2020年11月:保育士17人が一斉退職(宮城県涌谷町内の認可保育園)
- 2021年3月:保育士17人が一斉退職(群馬県藤岡市内の認可保育園)
保育士が一斉に退職したこれらの保育所は、運営を休園したり、規模を縮小するケースがほとんどである。少子化の解決のためには、保育所の充実は絶対に必要な条件である。それが、なぜこのようになるのだろうか。
2 一斉退職の原因
このような一斉退職に対して、SNSで一部に「無責任」という声が上がっている。しかし、平児は、そのような発言こそ無責任だと思う。退職するのは、よくよくのことである。一斉に労働者が退職するのには、必ず理由があるのだ。問題にするべきは、その理由の方なのである。
相模女子大客員教授の白河桃子氏は、総理官邸の新議会へ提出した資料(※)の中で保育士給与は20.7万/月で全産業平均から10万程度低い
と指摘し、、毎年4.9万人が保育士となるが、その7割弱である、3.3万人が離職している
と述べておられる。
※ 白河桃子「保育士の処遇改善の合理的理由および一億総活躍へのロードマップ」
また、今野晴貴氏は、介護・保育ユニオンが行った「保育業界相談集計結果」のまとめたものを紹介しておられるが、これをみると、436件の全相談件数のうち、賃金未払いが256件、パワハラ・いじめ被害が127件あるのだ。休憩時間がないにもかかわらず賃金が支払われていないケースや、持ち帰り残業(未払い賃金)が多いというケースもみられる。
※ 今野晴貴「世田谷保育士一斉退職 保育士は無責任だったのか?」
パワハラの問題は、中小の経営者のパーソナリティによって、しばしば発生するが、そのほとんどが低劣な労働条件を伴うことが多い。まさに、深刻な状況と言わざるを得ない。
前述した、一斉退職の事案でも、報道を観ると、パワハラと劣悪な労働条件が重なっているケースがほとんどである。保育士が“無責任”なのではなく、保育所の側に問題があるのだ。
3 現政権の保育所拡充への敵視
では、政府自民党の保育所に関する意識はどうかと言えば、これは自民党の杉田水脈議員のTwitterなどでの発言を見ればよく分かろうと言うものである。保育所は不倫の手段という発想なのだ。
杉田議員のこれまでの多くの発言を見ると、保育所の設置について敵愾心を持っていられるようだ(※)。
※ 猪野亨氏のブログ「待機児童はいないという杉田水脈氏の珍論 萩生田氏のママがいいならば育休に対応する期間の所得保障を実現してください」参照。
また、杉田氏は産経新聞の記事の記事で、次のように主張している。ここまでくるとほとんど妄想としか言いようがない。
【産経新聞2016年7月4日記事より】
旧ソ連崩壊後、弱体化したと思われていたコミンテルンは息を吹き返しつつあります。その活動の温床になっているのが日本であり、彼らの一番のターゲットが日本なのです。
これまでも、夫婦別姓、ジェンダーフリー、LGBT支援-などの考えを広め、日本の一番コアな部分である「家族」を崩壊させようと仕掛けてきました。今回の保育所問題もその一環ではないでしょうか。
※ 杉田水脈「「保育園落ちた、日本死ね」論争は前提が間違っています 日本を貶めたい勢力の真の狙いとは…」(産経新聞2016年7月4日)
そして、菅政権は、杉田水脈議員を、次期総選挙で比例名簿の上位に据えることを決定したとの報道がある。要は、杉田議員の考えは、菅総理と自民党によって高く評価されているのである。これが彼らの本音なのだ。
4 保育士の労働条件の確保が急務だ
保育士の劣悪な労働条件は、たんに保育士のみの問題ではない。少子化が進む我が国の将来にとっても重大な問題だといえる。保育士へのなり手がなかったり、優秀な保育士の離職率が多ければ、保育所の拡充などやりたくてもできない。
そうなれば、政府の掲げる“女性活躍”などあり得ないだろうし、少子化はますます急激に進むことになろう。
日本の未来のためにも、女性の活躍のためにも、保育士が未来に希望が持て、安心して働ける労働条件を実現することが急務である。平児は、そのためには野党の連合政権の実現が必要だと思っている。