1 スリランカ人女性の死
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筆者:平児
スリランカ人女性が亡くなった。報道からは明確ではないが、精神的ストレスと体調不良による衰弱死ということのようだ。だが、問題は彼女が出入国在留管理局に収容されていたということだ。国家が管理している場所で、なぜ人が衰弱して死ぬのか。
3月13日に、朝日新聞DIGITALが小さく報じた記事である。他にもいくつかの報道機関が報じている。いずれも小さな扱いだ。日本へやってきた一人の女性の死は、ほとんど重視されていないのだろう。
朝日新聞DIGITALの記事「 『いま たべたいです』死亡女性の手紙が語る入管の闇」によると、昨年12月に仮放免を求めた申請理由書の写しにはローマ字で『病院に行って点滴を打ちたいですが、入管は連れて行ってくれません』
と記されていたという。
NHKの記事「入管施設でスリランカ人女性死亡 上川法相 対応など調査を指示」は、政府が適切に対応していたというニュアンスで報じており、女性が以前から体調不良を訴え、施設内や外部の病院で医師の診察を受けていた
としている。
しかし、入管の問題は他にも数多く報じられている。2020年2月には「手錠されたまま14時間放置された」とペルー人が訴えている。2019年12月にはクルド人の入管収容者に対して暴行が行われたとの報道がある。同年11月には、成田まで往復40時間拘束されたとブラジル人が日本政府を訴えている。また、同10月には仮方面を求めた収容者がハンストで餓死したとの報道がある。
なお、クルド人への暴行とは、共同通信社によると次のようなものだ。
もちろん、入管の側にも言い分はあろうが、あまりにも問題が多く報道され過ぎるのである。本当に問題がなければ、ここまで多くの事件が報道はされたりしないのではないだろうか。
スリランカ人女性の死についても、人権侵害が行われていたのではないかという疑いが持たれるのである。出入国管理当局は、野党や国民、そして女性の遺族による、入管当局が記録した動画の公開を求めているが、「個人情報」を理由に拒否している。
これでは、入管当局の側にスリランカ人女性の死に責任のある問題があったのではないかと疑われても仕方がないだろう。
2 入管法改正案が閣議決定
この状況下で、出入国管理法の改正案がこの2月19日に閣議決定された。簡単に言えば、難民認定申請を2回申請して認められなければ、本国への送還があり得るというものだ(※)。
※ これに対し、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党、参院会派「沖縄の風」、「碧水会」、れいわ新選組は、本来保護されるべき難民の認定などにむけて対案を国会に提出している。これについては赤旗の記事「難民認定・長期収容改善へ」が参考になる。
これだけ聞くと、妥当な内容だと思われるかもしれない。だが、実態は、そうではないのだ。あまりにも難民認定の件数が少なすぎるのだ(※)。これでは、難民として認定されるべき人びとが、本国へ送還されて迫害を受けることがあり得るのだ。また、我が国内に居住する家族とも引き離されてしまう状況も指摘されている。
※ 政府の「令和元年における難民認定者数等について」によると、令和元年の難民認定申請者は10,375人、認定者数は44人にすぎない。
これについて、よくまとまった動画があるので、埋め込みで紹介しておく。
沖縄在住の方が作ったものである。画面が、やや不真面目な印象を受けるかもしれないが、なかなか分かりやすくできている。
入管法改正案は、立憲民主党、共産党などの野党の反発と、多くの国民の反対の中で、政府はその改正案を取り下げた。さすがに入国管理法改正が国際的な問題になると、五輪の遂行に支障が出ると判断したのかもしれない。
3 外国人の人権を侵害する政府は、早晩、国民の人権も侵害する
現代はグローバル社会だと言われる。その中で、我が国の経済的・外交的比重は、年々低下している。それは、少子化ということもあるが、国民全体から覇気が失われているということが大きいだろう。その原因は、自民党政権の国民を大切にしない政策が背景にあると平児は思っている。
そして、その国民軽視が、外国人の人権侵害という形で表れているのではないだろうか。母国へ帰れば迫害を受ける恐れがある外国人を強制的に送還することが、人権国家に相応しいとは思えない。
また、これからの国家の発展には、多様な社会こそが求められるのだ。外国人に対する人権侵害の実態に、もっと私たちは目を向けるべきだろう。