敵基地攻撃能力と予防戦争


2021年3月26日、自民党岸田文雄政調会長がFacebookに「我が国に対するミサイル攻撃を実効的に阻止するためには、相手領域内でのミサイル阻止能力、すなわち、敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力を保有することが必要です」と投稿しました。

これまでも、安倍前総理ら自民党の幹部は、予防戦争を肯定する発言をしています。政府が他国を攻撃することを肯定している状況で、憲法改悪を推し進めれば、政府は戦争を始めかねません。

きわめて危険な状況と考えるべきです。




1 岸田文雄政調会長の「敵基地攻撃」は予防戦争を意図している。

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最終修正:

筆者:平児

(1)岸田文雄政調会長は先制攻撃に大きく踏み出した

2021年3月26日、自民党岸田文雄政調会長がFacebookに「我が国に対するミサイル攻撃を実効的に阻止するためには、相手領域内でのミサイル阻止能力、すなわち、敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力を保有することが必要です」と投稿した。

これは、後述する稲田氏や河野氏の過去の発言から、大きく逸脱している。稲田氏は“敵”が先制攻撃をすることを前提としていた。河野氏は、“敵”の先制攻撃の意図だけで、敵基地を攻撃できるという、きわめて危険な考え方をしているが、曲がりなりにも“敵”の先制攻撃を前提としていた。

岸田氏は、ここを大きく踏み出して、敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させると言っているのだ。


(2)先制攻撃能力を持てば、“敵”は窮鼠猫を噛むことになりかねない

しかし、仮に“敵”が我が国を攻撃することを考えるような状況になったとすれば、自基地のミサイル発射能力を我が国が「直接打撃」することができると分かっているだろう。従って、やられる前にミサイルを発射して我が国の攻撃能力を奪わなければ、攻撃することはできなくなるのである。

一方、我が国の側から見れば、ミサイルが打たれた後の発射台だけ攻撃しても意味はない。そうならないためには、緊張が高まったときに、敵が攻撃をする前に先制攻撃をしなければならないのである。

ところが、そのことで“敵”の側もまた、やっかいなジレンマに陥ることになる。我が国が先制攻撃を仕掛ける可能性が少しでもあれば、「いっそ、その前に」と判断しかねないのである。


2 国際法上、先制攻撃や予防戦争は許されない

(1)他国への攻撃や進駐が許されるのは3つの場合に限られる

国際法上、軍隊が他国への攻撃や進駐できるケースは以下の3つに限られる。

  • 先制攻撃を受けた場合の自衛反撃
  • 他国の正当な政府からの要請
  • 国連軍としての参戦

岸田氏の言う次のような状況のみで先制攻撃することは、予防戦争(※)であって国際法上は許されないのである。

※ 他国の脅威を理由に先制攻撃を仕掛けることを「予防戦争」という。第一次大戦や第二次大戦は、各国の予防戦争によって拡大したことから、現在の国際法では禁止されている。

【岸田氏のFacebookより】

我が国にとって直接的かつ喫緊の脅威は、我が国を射程圏内に収める中国や北朝鮮のミサイルです。こうしたミサイルの即時発射能力や精密能力は年々向上しています。近年、北朝鮮は潜水艦発射型弾道ミサイルや変則軌道飛行を行う新型弾道ミサイルを日本海側に発射しました。中国は超音速滑空兵器の開発を進めていると言われており、我が国、そしてアジアに前方展開する米軍の直接の脅威となっています

※ 岸田文雄「facebook記事」より。


(2)第二次大戦後の侵略戦争の“理由付け”の歴史

第二次大戦後に行われた戦争は、最初のうちは曲がりなりにも前述した3つのいずれかの理由をつけていた。朝鮮戦争は自衛反撃という理由を双方が主張していた。また、旧ソ連の東欧諸国攻撃や、米国のベトナム戦略は、相手国(実際は傀儡政権)の要請という形をとっていたのである。

これが、無視されるようになったのは、米国のグレナダ侵攻からである。このときは「自国民保護」を理由にしていた。これは国際法上許されない理由であった。しかも、実際には、自国民が危険にさらされていなかったことを、米国政府が知っていたことが後に判明している。

そして、国際法違反の予防戦争であることを隠そうともしなかった最初の戦争が、ブッシュによるイラク戦争である。イラクが外国への侵略の経験があり、大量破壊兵器があることを理由に攻撃したのだ。実際には、かつてイラクがイランに侵略したとき、米国はそれを支援していたのだが、そのことは都合よく忘れられていた。

また、世界中で、最も多く他国へ侵略戦争をしかけ、最も多く大量破壊兵器を保有しているのは米国だったが、そのことも問題にされなかった。


(3)安倍前総理によるイラク戦争支持の不気味

そして、この予防戦争=明らかな違法な戦争を、自民党政府が支持しているということは重要な事実である。前にも紹介したが次の動画を観て頂こう。

安倍総理は太田氏に言い負かされているが、言わんとすることは明らかである。予防戦争を正しいと言っているのだ。


3 安倍前政権による「敵基地攻撃能力」の保有についての考え方


(1)小野寺防衛相による「敵基地攻撃能力」保有についての国会質問

2017年1月に、衆院予算委員会で小野寺防衛相(当時=以下肩書はその時点のもの)が「敵基地攻撃能力」について安倍総理に質問した。もちろん与党による質問であり、打ち合わせの上のことである。
これに対し、安倍総理は前向きに回答した。我が国が、他国を攻撃する能力について国会で明言されたのだ。


(2)稲田朋美氏の「敵基地攻撃能力」保有発言

同年4月には、自民党が、党として安倍装置に「敵基地反撃能力」の保有を提言した。

さらに、朝日新聞の記事によると、翌2018年10月には稲田朋美氏が、ミサイル防衛で1発目のミサイルを撃ち落とし、2発目(が撃たれる)までに敵基地を反撃する能力を持っていない状況でいいのかと発言している。それでも、このときは“敵”が先制攻撃をしてくることが前提になっていた。


(3)河野太郎による“敵”の攻撃の意図の判断基準

ところが、朝日新聞の記事によると、2020年7月には、河野太郎防衛相が「敵基地攻撃能力」について、誘導弾などによる攻撃を防御するのに他の手段がないと認められる限り、基地をたたくことは憲法上法理的には自衛の範囲に含まれるとした。

問題は、どの時点で“敵”を攻撃するかである。河野防衛相は、敵の武力攻撃の着手については、その時点の国際情勢、明示された意図、攻撃の手段など、個別具体的な状況に即して判断すべきとしたのである。

これでは、いくらでも拡大解釈できてしまう。政府が、“敵”が攻撃の意図があると考えれば、こちらから先制攻撃ができることになりかねないのである。


4 自民党政権下での「敵基地攻撃」は戦争のリスクとなる

すなわち、自民党政府はこれまでも予防戦争を行いたいという意図を示してきたが、岸田氏は大きく踏み出したのである。この状況で、「敵基地攻撃能力」を備えれば、戦争を始めかねない。安倍前総理は、ミニブッシュになりたがっていたが、菅総理も安倍氏を承継すると宣言している人物である。他にも危険な思想を持った連中は多い。

しかも、こちらが攻撃能力を持てば、“敵”に対して、先制攻撃の理由を与えかねないのである。

そもそも、どこの国にとっても、日本に対してミサイルを撃ち込むことによって得る利益など何もないのである。いきなり攻撃してくることなどあり得ないのである。先制攻撃能力など、日本のリスクを増やすだけであろう。