同性パートナーの姓への姓の変更


※ イメージ図(©videoAC)

現行法制度では、国民が結婚すると民法第750条により「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とされているため、夫婦は同じうじ(姓)を名乗ることになります。

少なくない国民(多くの場合は女性)が、結婚しても旧姓のまま活動をしたいと思っても、法的に認められないこととなっています。このため、選択的夫婦別姓を望む国民の声が強くなっています。

一方、同性愛者の場合は、法的な結婚さえできず、結婚したくても地方自治体の多くが導入している同性パートナー制度を活用するしかありません。しかし、同性パートナー制度には法律上の根拠はなく、異性婚のように届け出だけで同じ氏(姓)になるということはありません。

同性パートナーの場合、ふうふがともにどちらかの氏(姓)を名乗りたければ、戸籍法第107条第1項により裁判所の許可が必要となります。しかし、戸籍法では、氏(姓)の変更には「やむを得ない事由」が必要とされています。同性パートナーとなっても氏(姓)が異なっていることが、「やむを得ない事由」に当たるかどうかは、これまで必ずしも明確ではありませんでした。

このほど、同性パートナーの氏(姓)と同じ氏(姓)になるために、名古屋家庭裁判所の許可を求めた人に対して、同家庭裁判所が「やむを得ない事由」に当たるとして、氏(姓)の変更を認める決定を出しました。他に前例があるかどうかは必ずしも明確ではありませんが、代理人弁護士によると今回の決定は異例ということのようです。今後は、これが前例となって同性パートナーの氏(姓)の変更が認められることとなりそうです。

もちろん、氏(姓)の変更も認めるのであれば、同性婚そのものを法的に認めるべきです。詳細に解説します。




1 婚姻と氏(姓)をめぐる現行法令の状況

執筆日時:

筆者:平児

(1)結婚した場合の氏(姓)の変更

夫婦と子供

※ イメージ図(©photoAC)

現在、我が国では、その是非はともかく、結婚すると民法第750条が「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とされているため、夫婦は同じうじ(姓)を名乗ることになる。どちらの姓を名乗るかは結婚する2人が自由に決めて届け出ることになる(戸籍法第74条)が、夫婦がそれぞれ独身時代の氏(姓)となることは許されないのである。

このため、結婚した場合、夫婦は法的に強制的に同じ氏(姓)となるわけである。また、親と子の氏(姓)が異なる場合も、本人(※)が望めば比較的容易に同じ性にすることが可能である。

※ 子が15歳未満の場合は、親が決定することができる(民法第791条第3項)。

なお、本稿の趣旨とはやや外れるが、この他では、離婚、養子縁組、養子の離縁などでも、法律によって氏(姓)が変更になる(※)

※ 離婚する場合は、一旦、旧姓に復することになるが、届出(戸籍法第77条の2)によって婚姻中の氏(姓)と同じ氏(姓)に変更することができる。また、親が結婚して子と親の氏(姓)が異なってしまった場合、父母が婚姻中であれば裁判所の許可なく、子の氏(姓)を親の姓と同じにすることが可能である。

なお、外国人には戸籍がないので、法的な意味の氏(姓)がない。そのため、外国人と結婚する場合は、夫婦で氏(姓)が同じになるとか異なるとかいうことは、法的には起こらないことになる。しかし、その場合であっても、裁判所の許可がなくても、届出のみで外国人である配偶者の氏(姓)と同じ氏(姓)に変更ができる(戸籍法第107条第2項)ことになっている。

しかし、結婚しても夫婦の双方が独身時代の氏(姓)で活動したいという少なくない国民の希望はかなえられないことになる。このため、選択的夫婦別姓制度の導入が求められているのである。


(2)同性パートナー制度の場合の氏(姓)の扱い

男性カップル

※ イメージ図(©photoAC)

一方、同性のパートナーの場合、結婚をしたくても同性婚の制度が現時点で認められていないため、多くの地方自治体で導入されている同性パートナー制度を利用するしか、現時点では方法がない。

しかし、同性パートナーを利用する場合であっても、ふうふで同じ氏(姓)になりたいという希望するカップルもいれば、独身時代の氏(姓)のままでいたいというカップルもいる。それは異性のカップルと何ら違いはない。

ところが、同性パートナーの場合は、異性カップルの結婚の場合とは異なり、自動的に氏(姓)が同じになるということはない。しかし、前項で示した、結婚や養子縁等で自動的に名前が変わる場合を除けば、氏(姓)を変えたい場合は、原則として裁判所の許可が必要となる(戸籍法第107条第1項)のである。

そのため、同性パートナーの場合であっても、同じ氏(姓)になるためには、通常の氏の変更の場合と同様に、戸籍法第107条第1項の裁判所の許可が必要となる。

しかし、国民があまり自由に氏(姓)を変えると混乱をきたすので、一般的な氏(姓)の変更についての規定である戸籍法第107条第1項は、氏(姓)の変更には「やむを得ない事由」が必要であるとされている。そして、これまでの判例では、「やむを得ない事由」とは「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいう(※)とされている。

※ 名古屋家庭裁判所「「氏の変更」の手続とは・・・」のよくあるご質問による。

これまで認められてきたのは、難読・珍奇な氏、近くに同姓同名の人物がいる、通称氏を長年使用しているなどの場合であり、裁判所は容易には氏(姓)の変更を認めないと言うのが定説である(※)

※ 旧漢字を新漢字に直したり(例えば渡邊を渡辺)にしたり、誤字・俗字を正字に修正するのは、市役所レベルで認められる。なお、結婚等で戸籍に変動があると平成6年以降は誤字は政治に修正され、俗字はそのままとする扱いがされている。


2 名古屋家庭裁判所が同性パートナーの氏(姓)の変更を認める

(1)名古屋家庭裁判所の決定例とその先例としての価値

ところが、2024 年5月に名古屋家庭裁判所が、同性パートナーがパートナーと同じ氏(姓)にしたいと許可を申請したのに対し、これを認める決定をしたのである(※1)。これまでに同種の決定がされているかどうかは分からないが、この許可を申請した代理人の弁護士は「同種の事例で変更が認められたのは異例(※2)としている。

※1 朝日新聞2024年5月9日「同性パートナーと同じ名字へ変更認める「婚姻準じる関係」名古屋家裁

※2 朝日新聞2024年5月9日「異性婚夫婦と「同じと認めてくれた」 名字変更認める司法判断に喜び」による。なお、最高裁の判例検索サイトで検索してもヒットしない。おそらく、同種の事案で氏(姓)の変更を認めた最初の決定例ではないかと思われる。

毎日新聞(※)によれば、「2人は互いを後見人とし、相続などについての取り決めを記した公正証書を17年に作成。共同購入したマンションで同居し、23年からは里子を養育している」、「ただ、戸籍上は異なる名字のため、医療機関を受診する際などに2人の関係の確認を求められたり、性的指向を暴露せざるを得なかったりする不便やリスクが生じていた」とされている。しかし、里子を育てているような場合でなくとも、生活実態から「婚姻に準じる関係にある」と判断されれば、氏(姓)の変更は認められるというべきである。

※ 毎日新聞2024年5月9日「名古屋家裁、同性カップルの名字変更認める 「夫婦同様の婚姻に準じる」

朝日新聞(※2)によると、「鈴木幸男裁判長は2人の生活実態を「婚姻に準じる関係」とし、名字が異なることで意に沿わないカミングアウトをしなければならない状況が生じることが「社会生活上の著しい支障」にあたると判断。戸籍法上の「やむを得ない事由」に相当するとして変更を認めた」とされている。

※ 朝日新聞2024年5月9日「同性カップルの「名字統一」に評価と懸念 根本解決への2ステップ

であれば、このことは他の地方自治体の同性パートナーシップ制度にも当てはまることになろう。今後、同種の許可申請には、それを認める決定が続くことが予想される。


(2)同決定のメリットと懸案事項

同性パートナーの場合で、ふうふが同じ氏(姓)になりたいと希望する人も多いだろう。そのような人々にとってはこれはきわめて大きな意味を持っている。今後、家庭裁判所への許可申請(※)を提出することによって、氏(姓)をパートナーと同じにすることが可能になるからだ。

※ 裁判所「氏の変更許可の申立書

一方、同性婚に反対する勢力からは、同性パートナー制度でも氏(姓)を変更できるのだから、同性婚を認める必要がないという主張をされることが予想されるという懸念はある。

もちろん、このような考えは誤りであり、名古屋家庭裁判所が「名字が異なることで意に沿わないカミングアウトをしなければならない状況が生じることが「社会生活上の著しい支障」にあたる(※)としていることからも、逆に同性婚を認めることの必要性の根拠となるというべきである。

※ 朝日新聞2024年5月9日「同性カップルの「名字統一」に評価と懸念 根本解決への2ステップ


3 最後に

女性カップル

※ イメージ図(©photoAC)

今回、名古屋家庭裁判所が審判において同性パートナーの氏(姓)の変更を認めたことは、同性婚を定めていない現行民法が違憲であるとした判例など、一連の判例の流れの中で積極的にとらえるべきものである。

審判で許可を得たので、居住する市町村役所への届け出で氏(姓)の変更は可能ということになる。今後、このような許可が増えることを強く希望する。

また、このような同性パートナー制度の権利の拡充という方向から、政府への同性婚を認めることへの圧力になることを強く期待したい。


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