2023年2月1日、第211国会の予算委員会において、同性婚を求める野党の発気に対し、岸田総理は「家族観や価値観、社会が変わってしまう」として「社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と発言しました。
この総理発言について、公明党の石井幹事長は「(自分たちの公約である同性婚を進めることが)良い変化か、悪いかは立場による」として、「現時点では国民的な理解が十分ではない」として同性婚の制度化に否定的な発言をしています。
その直後の首相秘書官の差別発言で影に隠れた形になっていますが、総理と公明党幹事長の発言はとんでもない差別意識の表れというべきです。そもそも、同性婚について国民的な理解が十分ではないという認識はあきらかに間違っています。
自民党・公明党は、みずからの差別意識を正当化するために、国民の一部にある差別意識を隠れ蓑にしているにすぎません。確かに、国民の一部に差別意識が残っていることは否定しませんが、それを理由に国家が差別を行ってよいということにはなりません。
自民党・公明党の差別意識の問題点を明らかにします。
- 1 岸田総理の国会での差別発言
- (1)総理発言にみられる問題
- (2)首相の発言に含まれる差別意識
- (3)社会全体は同性婚を認めている
- 2 公明・石井幹事長の差別発言
- (1)公明党・石井幹事長の発言にみる差別意識
- (2)公明党の本音が見えた
- 3 最後に
1 岸田総理の国会での差別発言
執筆日時:
筆者:平児
(1)総理発言にみられる問題
2023年1月26日、第211国会の参院代表質問において、岸田総理は、同性婚について「わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と、事実上、反対の意思を表明した。
※ 共同通信2023年01月26日「首相、同性婚制度に慎重 「家族の根幹に関わる」」など
さらに、2023年2月1日の第211国会の予算委員会において、同性婚を求める野党の発言に対し、岸田総理は「家族観や価値観、社会が変わってしまう」として「社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と発言した(※)。
※ 朝日新聞デジタル2023年02月02日「同性婚「社会変わってしまう」 首相発言に専門家「差別肯定と同じ」」など
この総理の発言は、同性婚を認めないと宣言し、その理由として「社会が変わる」だの「社会全体の雰囲気」だのを挙げたものである。しかし、この発言はまったく論理的でもなければ合理的でもない。支離滅裂というべきである。
そもそも「社会が変わってしまう」などというのは、同性婚を認めない理由にはなり得ない。国民の幸福のために、社会を変えてゆくことが政治の役割であろう。このような発言をするようでは、激変の時代の総理として失格というべきである。
また、「社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断する」というなら、社会の一部に陰湿な差別意識が残っていれば、国家の制度をそれに合わせたままにするということになりかねない。
結局は、総理は「社会全体の雰囲気」を持ち出して、自らの差別意識を正当化しようとしたものにすぎないというべきである。
(2)首相の発言に含まれる差別意識
この総理発言に対しては、報道機関からの「結婚の自由を願うLGBTなど性的少数者の求めに応じれば、固定観念を重視する層の反発を招きかねないとの認識が透ける
」(※)など、差別意識を有する勢力への配慮だという指摘がある。
※ 共同通信023年02月01日「首相、同性婚に否定的な考え 「社会が変わってしまう」」
では、「固定観念を重視する層」とは誰だろうか。これは、例えば「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」などが挙げられよう。旧統一教会が同性婚に強硬に反対していることは周知の事実である。また、「神道政治連盟国会議員懇談会」の会合で、「同性愛は先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」と書かれた冊子が配られた(※)ことも記憶に新しい。
※ 朝日新聞デジタル2022年07月01日「同性愛は精神の障害か依存症」 自民会合で配布の文書に差別的内容」など
自民党の集票マシンとして、自民党政権を支える一翼を担っているのが旧統一協会(※)や、右派の宗教組織であることは、今さら言うまでもない。
※ 例えば、斎藤美奈子「統一教会と自民党、その恐るべき癒着の構造」(ちくま web)、NHK2022年09月08日「自民“旧統一教会と接点の国会議員は179人”うち121人氏名公表」、朝日新聞デジタル2022年12月02日「この自民党のひどさはなぜ 旧統一教会問題 前のめり政権止めるのは」など
また、「社会が変わってしまう」という発言に対しても、なぜ変わってはいけないのかという疑問も出ている。差別意識を変えるべきではないというなら、それは差別意識そのものに他ならない。
※ 安田聡子「岸田首相の「同性婚で家族観や社会が変わる」発言に反発。「変わらないのは政治だけだ」」(HUFFPOST 2023年02月02日)
総理は、これらの自民党を支える集票マシンである宗教団体の差別意識に配慮して、国民の幸福に背を向けているのである。
(3)社会全体は同性婚を認めている
また、岸田総理は「社会全体の雰囲気」などという意味不明な言葉を、自身の差別的政策の根拠だとしている。しかし、国民世論調査を見れば、国民の過半数が同性婚の導入に賛成していることは明らかである。
例えば、朝日新聞の2021年3月の世論調査(※)では、同性婚を「認めるべきだ」が 65 %、「認めるべきでない」は 22 %と、「認めるべき」が「認めるべきでない」のほぼ3倍となっている。
※ 朝日新聞デジタル2021年03月22日「同性婚、法律で「認めるべき」65% 朝日新聞世論調査」
これはNHKの世論調査でも、「男性どうし、女性どうしの結婚も認めるべきだと思うか」との問いに対し、「賛成」が 57 %、「反対」は 37 %と賛成が過半数となっている。
※ NHK2021年07月01日「ジェンダー “社会の本音”は? NHK世論調査より①」
また、Marriage for All Japan の調査では、同性婚の賛否について、賛成 21.7 %、やや賛成 50.8 %、やや反対 19.6 %、反対 7.8 %と賛成が反対を大きく上回っている。
※ Marriage for All Japan「同性婚に関する意識調査 報告書」(2020 年4月)
社会全体の雰囲気を言うなら、わが国はすでに「同性婚」を認める雰囲気が出来ているのである。それを認めようとしないのは、総理と自民党を支える一部の右派集団の中にある差別意識に過ぎない。
2 公明・石井幹事長の差別発言
(1)公明党・石井幹事長の発言にみる差別意識
次に、総理秘書官の差別発言に隠れてあまり問題とされなかったが、公明党の石井幹事長の恐るべき差別発言について指摘しておきたい。
石井幹事長は、岸田総理の差別発言を擁護し、2月2日に行われた記者会見で「(同性婚が)良い変化なのか悪い変化なのか、そこは立場によっていろいろあるかもしれない」とした上で、同性婚に消極的な考え方を表明した。
※ 朝日新聞デジタル2023年02月03日「同性婚法制化「良い変化か、悪いかは立場による」 公明・石井幹事長」
これは、一般論としての同性婚について「良いか悪いかは人による」としたものではない。公明党が参院選の公約で同性婚について「必要な法整備に取り組む」としていたことについて「良い変化なのか悪い変化なのか、そこは立場によっていろいろあるかもしれない」としたものなのである。
要は、参院選の公約で約束したことを、良いか悪いかは立場によるとした上で、(悪いことだから)やらないと明言したようなものである。
公明党にとって、選挙公約とはなんなのだろうか。どうやらこの党の辞書には「信義」という言葉も「誠実」という言葉もないらしい。あきれるばかりである。
(2)公明党の本音が見えた
繰り返しになるが、公明党は、2022 年の参院選の選挙公約で、同性婚について「国民的議論を深めるとともに、国による具体的な実態調査を進め、必要な法整備に取り組む」としていたのである(※)。すなわち、国民の意識を変えてでも、同性婚の導入を図ると国民に約束していたわけである。
※ 東京新聞TokyoWeb2022年07月04日「同性婚を認めるか? 選択的夫婦別姓は? ジェンダー平等や多様な家族のあり方巡り各党の姿勢分かれる」
ところが、選挙が終わってしまうと、自分たちの公約について「良いか悪いかは人による」として、やらないというのである。すなわち、同性婚は悪いことだというのが公明党の本音というわけだ。
選挙のときは、票を得るために本音を隠してやるつもりのないことを公約したが、選挙が終われば本音を出すということである。なお、朝日新聞デジタル、2017年衆院選朝日・東大谷口研究室共同調査で、公明党の竹内譲衆議院議員(近畿ブロック)は同性婚に「どちらかと言えば反対」と回答している。選挙の前に本音を出しただけマシというべきかもしれない。
公明党は自民党と連携して、杉田水脈氏のようなレイシストを総務省政務官に据える政権を構成しているのであるから、レイシズムはこの政党の本質なのであろう。
要するに独自の宗教観を、多くの国民の幸福よりも優先させる政党が公明党なのである。
3 最後に
岸田総理は、国会における総理の正式な発言として、同性婚は「社会が変わってしまう」からやらないと明言した。自民党と連立を組む公明党も、恥知らずにも自らの公約に対して「良いか悪いかは人による」と言ってのけて、同性婚はやらないと明言した。
ところが、公明党の恥知らずな発言は、首相秘書官の差別発言(※1)で影に隠れてしまった。岸田総理は、これ幸いと秘書官を更迭して(※2)、自らは差別主義者ではないとアピールしている。
※1 毎日新聞2023年2月4日「更迭の荒井首相秘書官「同性婚、社会変わる」 発言要旨と詳報」」
※2 毎日新聞2023年2月4日「差別発言の荒井秘書官更迭 岸田首相「任命責任感じる」」
杉田総務省政務官のときは、必死に抵抗した岸田総理も、役人のことなら更迭しても自らのダメージはないと計算したようだ。
それにしても、首相秘書官の差別発言も酷いものだが、同秘書官によると、秘書官室も全員が同じ考えだという。公務員は試験によって採用されるから、当然、同性婚に賛成の者も反対の者もいるだろう。偶然に、秘書官室の全員が同性婚に反対の者がなる確率はゼロに近いから、意図的にそういう人間を集めたものであろう。
公明党もその自民党と連立政権を構成しているのであるから、本質的なところは自民党と同じなのである。いかにも、同性婚に賛成とか、平和の党とか、差別反対とか言っているが、それが本音なら自民党と連立を組むはずがない。要は、選挙目当てに耳障りの良いことを言っているにすぎないのである。
やはり、国民が幸せを実現するためには、自民党とこれを支える鵺のような公明党の政権は終わらせるしかなさそうだ。