※ イメージ図(©photoAC)
近年、LGBTQ(SOGI)に対する差別が、他のマイノリティに対する差別と同様に許されないことなのだという認識が、とくに若者を中心に国民の中に広まりつつあります。
同性婚についても、世論調査によれば7割以上の国民が賛成しており(※)、各地の下級審でも同性婚を認めていない現行法制度を憲法違反であるとする判例が相次いでいます。
※ 朝日新聞2023年02月20日「同性婚、法律で「認めるべきだ」72% 前回から増加 朝日世論調査」、朝日新聞2023年6月14日「同性婚への賛同、日本は74% でも、「強く賛同」の比率低く」など
ところが日本は G7 では同性婚を認めていない唯一の国である(※)など、同性カップルに対する制度的な差別が根強く残っています。このことは、国際的にも日本の人権保障について疑念を持たれる原因となっており、わが国が国際社会で活動してゆく上での障壁となっています。
※ BBC 2023年10月03日「日本の同性カップル、結婚の平等が認められず 理解増進法にも失望の声」
この最大の原因が、自民党保守派の大きな抵抗であり、それを支えているのが安倍政権時代にそのブレーンとして勢力を伸ばしたアンチ人権派の評論家グループです。
同性婚の導入に対して反対しているグループが、反対の理由として挙げている論拠を整理し、それらが全く意味のないことであることを論証します。
- 1 同性婚をめぐるわが国の現状
- (1)国際社会の中でのわが国の現状
- (2)わが国における同性婚をめぐる状況
- (3)国会議員及び各政党の同性婚への態度
- 2 同性婚反対派の反対の理由とは
- (1)同性婚反対派の主張
- (2)飯山陽氏の同性婚反対の理由
- (3)その他の同性婚への反対論
- 3 同性婚反対派の反対理由に応える
- (1)自民党・公明党の同性婚反対派の主張への反論
- (2)飯山陽氏への反論
- (3)その他の反対派への反論
- 4 最後に
1 同性婚をめぐるわが国の現状
執筆日時:
筆者:平児
(1)国際社会の中でのわが国の現状
※ イメージ図(©photoAC)
わが国は、同性婚制度を認めていない。これは G7 の中では我が国のみという状態である。世界全体でみれば、2024年4月1日の時点で、すでに 37 か国(※)が同性婚を認めており、世界人口に占める割合では 17 %に達している。
※ NOP 法人 EMA 日本の WEB サイト「世界の同性婚」による。なお、2024 年3月 27 日、タイ国会の下院が同性婚を認める法案を可決した。
このような中で同性婚を認めていないことは、「高度人材の受け入れなどに支障をきたす
」(※)との指摘もある。
※ 日本経済新聞2018年2月14日「同性婚、世界で合法化の動き」
日本が世界の中で人権後進国であることは、多くの識者が指摘しているところである(※)。このようなことでは、我が国は、人権が守られないという観点から、世界の中で孤立化してゆくことも考えられよう。
※ 例えば、朝日新聞 2023年2月1日「日本の人権状況は「後進国レベル」 辻村みよ子さんが背景を解説」で、東北大学名誉教授の辻村みよ子氏が「G7議長国の日本も、人権保障の国際水準では先進国最下位どころか、後進国レベルにあるといえます。世界経済フォーラムの GGI(ジェンダーギャップ指数)では政治分野の男女格差は 146 カ国中 139 位で世界ワーストテンに入っていますし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの 2022 年版報告書でも、国内人権機関や差別禁止法が無い点が問題視されています
」と指摘している。
なお、人権意識の低さは、企業においても同様という指摘もある。飯塚真紀子氏は、「世界の大企業対象“人権尊重ランキング”で日本企業は平均点以下続出 人権後進国日本はジャニーズ離れか」において「日本の大手企業の人権尊重の低さを示している指標に、国際人権NGO“The World Benchmarking Alliance”が世界的企業の人権に対する取り組みを調査し、採点している「企業人権ベンチマーク(CHRB)」がある。この指標によると、多くの日本企業が平均点以下というヤバい点数だ
」と指摘する。
(2)わが国における同性婚をめぐる状況
わが国では、明治以降、同性愛は嫌悪感や好奇心の対象となっていた面があり、これが差別意識に繋がっていた(※1)といえる。しかしながら、現在では同性愛に対する啓発活動が行われてきたこともあり、世論調査によると 70 %以上の国民が同性婚に賛成している(※2)ところまで、改善されている。
※1 赤枝香奈子「改めて考えるLGBTQ+。女性同士の親密な関係からみる歴史とその背景」、小宮明彦「同性愛嫌悪をめぐる日英(教育)文化比較」、鄒韻「大正時代における女性同性愛を巡る言説」など。なお、日本では、1873 年(明治6年)から 1880 年(明治 13 年)まで、男性同士(だけではないが)の性行為を鶏姦罪として法律で禁止していたことがあった。
※2 朝日新聞2023年02月20日「同性婚、法律で「認めるべきだ」72% 前回から増加 朝日世論調査」、朝日新聞2023年6月14日「同性婚への賛同、日本は74% でも、「強く賛同」の比率低く」など
このような国民の意識の変化の影響もあるのだろうが、国が同性婚を認めていないことについての損害賠償請求事件で、同性婚を認めていない現行法制度を違憲であるとする下級審判例が相次いでいる(※)。
※ 当サイトの「札幌高裁の同性婚訴訟(控訴審)違憲判決」、「札幌地裁の同性婚違憲判決」などを参照されたい。
また、最3小判令和6年3月 26 日は、同性パートナーを「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当する場合があると判断し、名古屋高裁判決を破棄し差戻した(※)。
※ 当サイトの「最高裁が同性者を犯給法の救済対象と判断」を参照されたい。
すなわち、国民の理解という観点からも、法的な観点からも、すでに同性婚の導入には何の問題もなくなっているのである。
(3)国会議員及び各政党の同性婚への態度
ア すべての主要な野党が同性婚に賛成
(ア)政党レベルではすべての主要な野党が同性婚に賛成
国会でも、同性婚は、すべての主要な野党が導入に賛成している。2022年の各政党への質問に対する回答(※)では、回答を寄せたすべての野党が賛成と表明している。
※ MARRIAGE FOR ALL Japan の WEB サイト「【選挙情報】結婚の平等(同性婚)に関する各政党の考え~政党公開質問状への回答~」
なお、国民党は態度を明らかにしていないが、これは極小政党である。また、極右の参政党は同性婚に反対しているが、この党は国会議員1名の極小勢力にすぎない。
(イ)国会議員レベルでは賛否を明らかにしない議員も存在
① 全議員が賛成とするのは共産党、れいわ新選組及び社民党
※ イメージ図(©photoAC)
しかし、個々の国会議員レベルでは、全議員が「賛成」としているのは、共産党、れいわ新選組及び社民党のみである(※)。れいわ新選組及び社民党の議員数は、現時点ではそれほど多くはないため、共産党の全議員が同性婚に賛成していることには大きく期待でできると言ってよい。
※ MARRIAGE FOR ALL Japan の WEB サイト「政党別国会議員の同性婚への賛否割合」。以下、国会議員の政党別の割合は、このサイトの数値による。
なお、立憲民主党は、過半数の議員が「賛成」しているものの、「どちらかといえば賛成」又は「どちらともいえない」としている議員もいる。
② どちらかといえば賛成の議員の意味
ところで、与野党を問わず、「どちらかといえば賛成」と答える議員の割会がかなりある。議員としての信念として同性婚の導入を積極的に進めるというのではない。おそらく同性婚を含めた人権問題に対する関心がないのであろう。
あえて明確に「賛成」としないのは、このことについてあまり知識がないこともあるのだろうが、反対派に気を遣っているもかもしれない。あるいは、進歩的と思われたいために賛成と答えた方がよいと思っているのであろうか。
しかし、「どちらかといえば賛成」なのであるから、国会での投票ということになれば、与党の議員を別にすれば賛成に回るものと思われる。
※ 与党、とりわけ公明党の議員は、「賛成」と答えている議員を含めて「反対」に投票する可能性が高い。これについては後述する。
③ 議員レベルでは「どちらともいえない」と答えるものも
また、野党ではあっても、「どちらともいえない」と答える議員が少なからずいることも事実である(※)。こう答える議員のかなりの部分は、同性婚の問題について全く関心がないグループと、後援会の会員が賛成派と反対派に分かれているため、態度を明らかにしない方が有利だと考えているグループのどちらかであろう。
※ ごく少数だが、回答しない議員もいる。これは、回答しない方が議員としての自らの立場を不利にしないと思っているのであろう。
これだけ、大きな話題となっていることについて、態度を決められないというのは、議員としては、やや情けないと言うべきであろうか。
彼らは、「どちらでもない」と答えていることで、「進歩的」ではなく人権意識に欠けるという議員としてのリスクを冒しているのである。にもかかわらず、あえて「賛成」又は「どちらかといえば賛成」と答えないのは、反対派の支持を失うことのリスクの方が大きいと考えているとしか思えない。
また、その他に、本人は「反対」であるにもかかわらず、「反対」と答えることで野党支持者に多い人権派の支持を失うリスクを計算して、「どちらでもない」としているグループもいるだろう。
いずれのグループも、彼らが「賛成」又は「反対」に転じる可能性は低いだろう。ただ、国会で投票が行われれば、一部の議員は欠席し、又は反対票を投じる恐れはあるかもしれないが、これまでの野党議員の投票行動から判断する限り、その可能性は低いのではないか。おそらく、党議拘束によって賛成票を投じる可能性が高いだろう。
イ 自民党は反対が多いが、賛否が分かれる
一方、与党の自民党は、国会議員レベルでは「どちらともいえない」「無回答」が多い。進歩的と思われたいので「賛成」と回答したいところではあるが、保守層の反発を考慮してそれはできない。一方、「反対」と回答すれば、無党派層から進歩的ではないと思われる恐れがある。それでどちらとも答えられないのであろう。いずれにせよ、この問題について、政治家としての信念はなく、関心もないのであろう。
ただ、一部には、賛成又は反対と表明している議員もいる。賛成と反対では、圧倒的に反対が多い(※)。彼らは、この問題に関していずれかの立場からの政治信念を持っているのであろう。
※ しかし、自民党は、党としての賛否は明らかにしないという方針を取っている。自民党は与党であり、その気になれば改正はできるにもかかわらず、現実には法改正に着手しようとさえしないのであるから、実質的には党として反対だと考えられる。ただ、無党派層から人権問題に後ろ向きと思われるのを嫌って、「賛否を明らかにしない」としてるに過ぎないのだろう。
明確に反対だと表明しているのは、自民党内でも保守層と言われる人々である。彼らの中には、元安倍総理が教育勅語を現代教育に持ち込もうとしたときに賛成するなど、第二次大戦中の軍国主義を理想とする傾向が根強いことも事実である。これについては、当サイトの「自民党幹部の本音を探る」を参照して欲しい。
※ イメージ図(©photoAC)
これは、新潮45に LGBTQ 差別文書を書き、また、さまざまなところでレイシズム発言をしている杉田水脈議員などが典型例である。その他には、片山さつき議員、稲田朋美議員なども挙げられよう。
また、そもそも岸田総理自身が国会で「同性カップルに公的な結婚を認めないことは、国による不当な差別であるとは考えていない
」と答弁している(※)ことからも分かるように、自民党としては同性婚を導入する意思はないのである。
※ BBC NEWS 2023年3月3日「岸田首相、同性婚を認めないのは「国による不当な差別でない」と発言し批判される」
その反対の理由としては、報道(※)によれば次のようなことである。
【岸田総理による同性婚に消極的な理由 ①】
※ 朝日新聞 2023年2月2日「同性婚「社会変わってしまう」 首相発言に専門家「差別肯定と同じ」」(引用者において箇条書きとした。)
- 家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ
【岸田総理による同性婚に消極的な理由 ②】
※ 日本経済新聞 2023年6月13日「岸田首相、同性婚に慎重姿勢 「法制化は影響出る」」(引用者において箇条書きとした。)
- 法制度を作るとなると、国民にさまざまな影響が出てくる
- 幅広い議論が必要で、理解が進むことが重要だ(さまざまな意見がある中、国民の理解を得られるべく議論を深める姿勢は重要だ)
要するに国民の中に同性婚に反対の者もいるのだから、彼らの考えが変わるまで待つべきだというのである。分かり切ったことであるが、この反対の者には、杉田議員や片山議員などが含まれるのであろう。だとすれば、永遠にそのようなときはこない。
これは、国民の中に反対派がいるということを理由にして、同性婚は未来永劫認めないと言っているのと同じである。
ウ 本音と建前を使い分ける公明党
公明党は、個々の国会議員の回答は「どちらかといえば賛成」としているものが最も多く、「賛成」と「どちらともいえない」が残りを2分している。。しかし、石井幹事長は、実際に同性婚を法制化して認めることは消極的な姿勢をとっている(※)。要は、人権派を装うために「賛成」「どちらかといえば賛成」と言ってはおくが、現実に同性婚の法制化をすることは阻止するということである。
※ これについての詳細は「自民・公明両党幹部発言にみる LGBTQ に対する差別意識」を参照して欲しい。公明党は、個々の議員や政党レベルで、表向きは同性婚に理解があるようなことを述べるが、本音のところでは反対なのである。
むしろ、自民党は個々の議員レベルでは、少数ではあるが賛成を唱える議員もおり、彼らは本心から同性婚の導入をするべきだと考えているのである。選挙のときは同性婚の導入に賛成と言っておきながら、実際の導入には抵抗するという公明党の姿勢は強く批判されるべきである。
さて、公明党の石井幹事長が、同性婚の導入を阻止しようとする理由は次のようなものである。
【公明・石井幹事長による同性婚に消極的な理由】
※ 朝日新聞 2023年2月3日「同性婚法制化「良い変化か、悪いかは立場による」 公明・石井幹事長」(引用者において箇条書きとした。)
- (岸田文雄首相が「社会が変わってしまう」と否定的な考えを示したことについて)総理が言うように、ある意味で今までやっていないため社会が変化する、ある意味で変わっていくということはそれはそうなんだと思う
- まず国民の理解が広まらなければならない。良い変化なのか悪い変化なのか、そこは立場によっていろいろあるかもしれない。しかし、現時点では国民的な理解が十分ではない
すなわち、自民党の岸田総理の主張とまったく変わらないのである。公明党が宗教団体と表裏一体であることは、誰もが認める公然の事実である。その宗教団体の本音の部分は同性婚に反対ということなのだろう。
2 同性婚反対派の反対の理由とは
(1)同性婚反対派の主張
岸田総理や公明党石井幹事長は、さすがに建前ではあまり差別的な言辞は弄しない。「同性婚を認めれば、国民生活に大きな影響がある」ということと「国民すべての理解が得られていない」という2点である。
この2つもほとんど意味のない馬鹿げたものではあるが、それへの反論は後に回して、他の「識者」の主張を見てみよう。
(2)飯山陽氏の同性婚反対の理由
同性婚に反対している「識者」といえば、イスラエルによるガザでのジェノサイドを強く支持している飯山陽氏が挙げられる。
飯山氏が同性婚に反対する理由は、氏のポストに端的に示されている。これによれば「この(同性婚の:引用者)先には、一夫多妻や一妻多夫、夫や妻の共有の推進があるだろうと予想させる。行き着く先は家族制度の崩壊と共産主義者の理想社会だ。これが私の「素朴な理解」である
」というのである。
どうやら、これが飯山氏のいう同性婚反対の理由らしいのだ。なぜか、飯山氏は同性婚を認めると、一夫多妻や多才一夫になると信じているらしい。現に同性婚を導入した国で一夫多妻や一妻多夫が導入されたということは寡聞にして聞かない。また、同性婚と一夫多妻、一妻多夫とどうつながるのかも飯山氏はまったく示してはいない(※)。
※ 飯山氏自身、「素朴な疑問
」と述べているので、とくに理論的な根拠はないのかもしれない。だが、それでは、学者の主張とは言えないだろう。
また、家族制度の崩壊と共産主義者の理想社会になるというのである。共産主義者の理想社会というのが何を示しているのかは不明である。共産主義者と言うなら、日本共産とのことであろうか。日本共産党の「夫婦別姓・民法・家族」には、様ざまな主張が記されている。これが何か問題なのであろうか?
このポストから分かるのは、飯山氏が同性婚を嫌っているということと、共産主義について偏見を有しているということだけである。
(3)その他の同性婚への反対論
諸外国では同性婚に反対の論者は、彼らの主張をきちんと伝えているが、日本の反対派は明確に意見を述べている識者は、先述した飯山氏などを除けば、ほとんどないようだ。実際に、書籍やネットでかなり調べてみたが、明確に反対の理由を述べているものはほとんど見当たらないのである。
ただ、NHK の調査(※)によれば「「子どもが生まれず少子化が進むから」と「結婚は男女ですべきものだから」が、いずれも36%。次いで「伝統的な家族のあり方が崩れるから」24%でした
」とされている。もっとも、これらは NHK が準備した選択肢であるから、厳密には NHK が反対派の反対する理由を推測したものにすぎないのかもしれないが。
※ NHK 2021年7月1日「ジェンダー “社会の本音”は? NHK世論調査より①」。
また、IRISという企業が「伝統的な宗教道徳から同性婚制度に反対していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾されるなど、深刻な人権侵害が逆に発生してしまいました
」、「同性婚を認めるということは、男女のカップルを前提とした日本社会のルールを根底から見直す必要性も出てきます。これまでのルールを見直して調整していくためには、膨大な時間やコストがかかってしまう反面もあるということです
」などとしている。
※ IRIS「日本における同性婚を認めるメリットとデメリット」。なお、同社は同性婚に反対しているわけではない。
反対派の理由をネットで検索すると、スイスの宗教者のジェラール・ぺラ氏の主張(※)が上位にヒットする。日本人の意見は全くと言ってよいほどヒットしない。そこで、ぺラ氏の主張の内容を見てみよう。
※ swissinfo.ch 「同性婚反対派 「合法化は新たに2つの不平等を生み出す」」
ぺラ氏によれば、反対の理由は、「法案は不平等の解消を目的としながら2つの不平等を生みます。まず、レズビアンは子供を持てるのに対し、ゲイはそうではない点で、男女平等とは言えません。最も深刻な不平等の対象になるのは、医学の助けを借りた女性カップルから生まれる子供たちでしょう。他の子供たちのように父親と母親を持つ権利がないのですから
」という。しかしゲイのカップルは同性婚を望んでおり、レズビアンのカップルとの差別など問題にしていない。また、養子という差別構造を生むというが、これは、現実のすべての養子に対する侮辱であると同時に差別意識の発露であろう。
これらの断片的な情報を整理すれば次のようなことだろうか。
【同性婚反対派が同性婚に反対する理由】
- 子どもが生まれず少子化が進むから
- 結婚は男女ですべきものだから
- 伝統的な家族のあり方が崩れるから
- 同性婚制度に反対していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾される
- これまでのルールを見直して調整していくためには、膨大な時間やコストがかかってしまう
- レズビアンは子供を持てるのに対し、ゲイはそうではない点で、男女平等とは言えない
- 同性愛者の子供は父親と母親を持つ権利がない
3 同性婚反対派の反対理由に応える
(1)自民党・公明党の同性婚反対派の主張への反論
ア 現時点で同性婚を制度化するべきでないとする理由
先述したように、自民党、公明党のトップが掲げる同性婚を現時点で制度化しない理由としては次の2点を挙げている。
【自民・公明両党が現時点で同性婚を制度化しない理由】
- 同性婚制度を導入することで社会が変化する。
- 現時点では国民的な理解が十分ではない。まず国民の理解が広まらなければならない。
イ 同性婚制度を導入することで社会が変化するという論点
自民党・公明党のトップは、「同性婚制度を導入することで社会が変化する」ということを、現時点で同性婚を制度化しないことの理由に挙げている。しかし、これは反対の理由になっていない。ある意味で社会が変わるということは、同性婚推進派も認めるところであろう。制度を換えれば社会が変わるのは当たり前である。
問題は、社会が変わるかどうかではなく、良い方向に変わるのか悪い方向に変わるのかである。しかし、これまでは同性愛者は、結婚という異性愛者に認められていた権利を認められていないという、権利の不平等が存在しているのである。その不平等を解消しようというのであるから、そのこと自体は良いことだとしか言いようがないのである。
社会が変化することを反対の理由に挙げるなら、社会が悪い方向に動くということを主張・立証するべきであろう。公明党の石井幹事長のように、選挙のときは同性婚を推進すると公約に挙げておきながら、選挙が終わると反対に回り「良い変化なのか悪い変化なのか、そこは立場によっていろいろあるかもしれない」などというのは、卑怯としか言いようがない。
同性愛者と異性愛者の権利の不平等の解消に反対というなら、その利益(同性愛者への権利制限をなくす)を上回るほどのデメリットが何かを説明するべきである。
自分たちは、国会で絶対多数を占めているのだから、少数者の権利など制限してもよいというなら、それは中世の絶対的君主制と変わるところはない。
ウ 現時点では国民的な理解が十分ではないという論点
自民党・公明党は、冒頭にも挙げたように「国民的な理解が十分ではない」ということを、同性婚を制度化しない理由に挙げている。
しかしながら、各種の世論調査に見られるように国民の7割以上が同性婚の導入に賛成していることは冒頭で説明した通りである。
もちろん、反対している国民は存在している。だが、すべての国民が賛成しなければ何もしないというなら、武器の国外輸出や米国からの武器の爆買いこそ止めるべきであろう。それらは、多くの国民が反対しても自民党・公明党政府は推進してきたではないか。
そもそも反対しているのは誰なのか? 自民党がいう「理解が十分ではない国民」とは、自民党保守派の他、自民党を選挙面で支えてきた統一教会やネット右翼など、同性愛への差別意識を有する人びとのことではないのか。また、公明党の言うそれは、公明党を政治的に支える宗教団体のことであろう。
国民の7割が賛成しているにもかかわらず、自民党を支えてきた同性愛への差別感情を有する人びとが反対だからやらないというのであれば、自民党はレイシスト党と言うべきであろう。
また、公明党も、国民の7割の賛成しているにもかかわらず、宗教団体が反対だからそれを優先するというのであろうか。だとすれば、公明党は、王仏冥合(※)を目指す政党であり、宗教団体の教義に基づき、政治上の権力の行使をねらう政党だと言われてもしかたがあるまい。
※ 王仏冥合とは、政治と宗教を一体化させるということである。戸田城聖氏によれば、「王法と仏法とが冥合すべきである。王法とは一国の政治、仏法とは一国の宗教を意味する。宗教が混乱する時には国の政治も混乱する。(中略)社会の繁栄が即個人の幸福と一致しないということが、昔からの政治の悩みではないか。ここに日蓮大聖人が、政治と個人の幸福とは一致しなければならぬと主張遊ばされたのが王仏冥合論である
」(下線強調引用者:「王仏冥合論」創価学会会長戸田城聖)とされている。
公明党はかつては王仏冥合の他、国立戒壇もその理念に掲げていた。後に国立戒壇は公式には否定したものの、王仏冥合は現在も党の理念として掲げている。
国民の一部が理解していないというのは、同性婚の導入という、不当な権利の制限の撤廃を実現することの反対の根拠になどなり得ないのである。
(2)飯山陽氏への反論
多くの指揮者が同性婚への反対の理由を隠しているにもかかわらず、飯山陽氏が同性婚に反対する理由を明示していることには敬意を表する(※)が、その理由は次の2点であり、かなり荒唐無稽なものである。
※ 念のために断っておくが、皮肉である。
【飯山陽氏の同性婚に反対する理由】
- 同性婚の先には、一夫多妻や一妻多夫、夫や妻の共有の推進があるだろうと予想させる。
- 行き着く先は家族制度の崩壊と共産主義者の理想社会だ。
このような主張は、飯山氏のレベルの低さの証明にはなり得ても、同性婚に反対する根拠とはなり得ないものである。
すでに述べたように、同性婚の先には、一夫多妻や一妻多夫、夫や妻の共有の推進があるだろうと予想させるというなら、その根拠を示すべきであろう。同性婚を導入している国家は、かなり多いが、その中のひとつでも、一夫多妻や一妻多夫になった国があるだろうか? もちろん、ひとつもない。
また、異性愛者の婚姻制度を認めても、そのことによって、一夫多妻や一妻多夫、夫や妻の共有の推進が進むことがなかったのである。であれば、同性婚を認めても、まったく同じことである。異性婚を認めることと同性婚を認めることで、どんな違いがあるというのだろうか。あまりにもバカバカしい論理である。
さらに「行き着く先は家族制度の崩壊と共産主義者の理想社会だ」というに至っては、意味不明としか言いようがない。飯山氏が言う「家族制度」とはどのような状況を指すのか分からないが、ことによると男の家長が女性や子供に対して絶対的な権力を有する家族という意味かもしれない。だとすれば、確かに家族制度は崩壊するだろう。もっとも、すでに崩壊していなければ、ではあるが。
なお、飯山氏が言う「共産主義者の理想社会」というのが何を指すのかも不明である。権利の平等が進んだ社会ということであろうか? だとすれば、飯山氏の言う共産主義の理想社会が実現することを大いに期待したい。
(3)その他の反対派への反論
ア その他の反対派による反対の理由
その他の反対派の論拠をもう一度、繰り返そう。
【同性婚反対派が同性婚に反対する理由】
- 子どもが生まれず少子化が進むから
- 結婚は男女ですべきものだから
- 伝統的な家族のあり方が崩れるから
- 同性婚制度に反対していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾される
- これまでのルールを見直して調整していくためには、膨大な時間やコストがかかってしまう
- レズビアンは子供を持てるのに対し、ゲイはそうではない点で、男女平等とは言えない
- 同性愛者の子供は父親と母親を持つ権利がない
やや、意味不明なものもあるが、ひとつづつ反論していこう。
イ 子どもが生まれず少子化が進むから
※ イメージ図(©photoAC)
子どもが生まれず少子化が進むなどというのは、一見、正しそうに見えるかもしれない。だが、まったくの誤りである。
そもそも「法的に結婚を認めなければ、同性愛者のカップルに(より多くの)子供が生まれる」などという論理は成り立たない。従って、同性婚を認めたとしても少子化が進むことはあり得ない。否定しようもない単純で明確な真理である。
むしろ、結婚を制度的に認めることによって、同性婚のカップルが養子を得たり、レズビアンのカップルが精子提供による子供を育てたり、することが安心してできるようになるだろう。
かえって、同性婚を認めることで少子化は解消の方向へ進むというべきである(※)。
※ NEWSWEEK 2024年05月31日「「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと男女間の結婚まで増えた──米国調査」によれば、同性婚を認めるたら異性婚が増えたという調査結果を報告している。
なお、同性婚を認めなければ、同性愛者が異性と結婚して子供をつくるようになると主張する者がいるとすれば、あまりにも馬鹿げた考えである。それは、法制度によって異性婚を禁止して同性婚を認めれば、異性愛者が同性と結婚すると考えることと同じ程度に根拠レスな考えである。
ウ 結婚は男女ですべきものだから
結婚は男女ですべきものだからというのも、まったく反対の理由になっていない。確かに異性愛者にとっては結婚は男女でするべきものだろう。しかし、同性愛者にとっては結婚は同性でするものである。
たんに、自分の考え方は正しくて、それに反する考えは誤りだといっているに過ぎない。こういう固定観念から脱却しない限り、日本は古い因習のまま世界から取り残されてゆくことになるだろう。
常識などというものは、常に変わってゆくものなのである。
エ 伝統的な家族のあり方が崩れるから
伝統的な家族のあり方が崩れるからというのは、飯山陽氏に対する批判で述べたので繰り返さない。
別な面から反論すれば、仮に伝統的な家族のあり方が崩れるとしても、それは同性愛者の家族のことである。異性愛者は異性婚をすればよいのであって、「伝統的な家族の在り方を守るな」などとは誰も言っていないのである。どうぞ、異性愛者の方で、伝統的な家族のあり方がお好きな方は、伝統的な家族の下で幸福な家庭を育ててください。
ただ、同性愛者の家族に、父親と母親が揃っていないからと言って、あれこれ口を出すことはおやめくださいとは言っておくべきだろう。
そもそも「伝統的な家族のあり方が崩れるから」などというのは、シングルマザーやシングルファザーの家庭に対する差別意識があるとしか言いようがないのである。
オ 同性婚制度に反対していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾される
この「同性婚制度に反対していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾される」というのは、スイスのキリスト教の元牧師の方の主張であるが、ずいぶんおかしな話である。差別を解消すると、差別していた人々が「偏見の持ち主」として糾弾されるかた差別を解消するなと言っているに等しい。
このような理屈が通るなら、世の中のすべての差別や偏見はそのままにしておかなければならないことになる。
このような主張に対しては、私としてはこう答えたい。「ご心配なく。同性婚が制度化されなくても、同性婚制度に反対していた人々は「偏見の持ち主」として批判されていますよ」と。
カ これまでのルールを見直して調整していくためには、膨大な時間やコストがかかってしまう
この「これまでのルールを見直して調整していくためには、膨大な時間やコストがかかってしまう」というのも、スイスのキリスト教の元牧師の方の主張である。日本ではあまり例のない反対意見の根拠である。
だが、これもおかしな話である。確かに、同性婚を認めれば、年金制度や租税システムに使用されているソフトウエアの改修は必要になるだろう。また、これらのシステムにかかわる人たちが用いるマニュアルや教育用の資料も作り変える必要が出てこよう。
しかし、そのような費用は、どのような制度改正にも必要なのである。むしろ年金制度などたびたび変更されており、そのたびにこのようなコストがかかったはずである。制度改正とはコストがかかるものなのだ。
一方、それによって得られるメリットは、同性愛者の権利制限の撤廃という大きな公益の得られるものなのだ。到底、このようなことが同性婚を認めない理由とはなり得ないだろう。
キ レズビアンは子供を持てるのに対し、ゲイはそうではない点で、男女平等とは言えない
これもスイスの牧師の方の主張である。レズビアンのカップルは精子提供の方法で子供が持てるが、ゲイのカップルがそれをできないのは不公平ではないかというのだ。かなり奇妙な反論で、日本人で、このような主張をしている方は見たことがない。
だが、これは、大きなお世話というべきだろう。ゲイのカップル(の多く)が同性婚を望んでいるのである。このようなことは問題になり得ない。
そもそも、同性婚を認めなかったからと言って、レズビアンのカップルとゲイのカップルの間には、同様な問題が生じているのである。同性婚を認めたところで同じことである。
ク 同性愛者の子供は父親と母親を持つ権利がない
この「同性愛者の子供は父親と母親を持つ権利がない」というのもスイスの牧師の方の主張である。これと同様な主張は、日本でも人権意識の低い人びとがすることがある。
繰り返しになるが、このような主張は、シングルマザーやシングルファザーに育てられた子供に対する卑劣な差別以外の何物でもない。このような主張は実に卑劣である。
ここで、米国のアイオワ州で同性愛者たちのパートナーシップ制度を廃止するという提案されたとき、この提案に反対するためのスピーチを紹介しておこう。「レズビアンのカップルに育てられたザック・ウォルスのスピーチ「家族」」だ。
【ザック・ウォルス氏の言葉】
これから2時間、両親がゲイであることが子供にどれだけ有害であるかが多数証言されると思います。しかし私が生きてきたこの19年間これまで一度たりとも私がゲイのカップルに育てられたことを感づかれて、そうなのかと聞かれたことはありません。
なぜだか分かりますか?
それは私の両親の性的な指向は私の人格に全く影響がないからです。
どうもありがとうございました。
彼が19歳の若さで、州議会においてここまでしっかりと発言できることが、ゲイのカップルに育てられることの意味を証明している。
4 最後に
最後に、このサイトの他の複数のコンテンツでも紹介しているが、ここでも「同性婚を認める法案の賞賛されたスピーチ」を紹介しよう。2013年にニュージーランドで同性婚を認める法律ができたとき、モーリス・ウィリアムソン議員が議会でしたスピーチを日本語字幕付きで紹介しているものだ。
【ニュージーランドのモーリス・ウィリアムソン議員の言葉】
この法案で我々がやろうとしていることは、愛し合う二人に、結婚という手段を認める。それだけです。これが全てです。
何か問題でしょうか。お金もかからないのに。なぜこの法案に反対なさるのかがわからない。
締めくくりに、それでも法案を懸念なさる方々へ聖書からの引用を。
申命記です。
懼るるなかれ。
わが国の同性婚に反対する論者の多くは、反対の理由を、ほとんど明らかにしていない。差別的な意識を「国民の理解」だの「伝統的な家族観が崩れる」だのと耳障りの良い言葉で糊塗しているだけである。このような反対論者の態度は、卑怯というより他はない。
本稿では、反対論者が表向き、述べている反対の根拠を集めて、それへの反論を述べた。本稿でもわかるように、同性婚への反対論者は、合理的な反対の根拠を何一つ持っていないのである。
冒頭にも述べたように、すでに判例でも同性婚を認めない現在のシステムは憲法に違反すると述べる者が増えてきている。また、憲法に反すると述べていない判例も、同性婚の導入は現行憲法に違反するとは述べていない。
今こそ、古い因習に別れを告げて、新しい未来社会へ向かうときである。同性婚の早期実現を図ろう。
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