某国会議員のキャバクラ発言


自民党の赤枝恒雄衆院議員(当時)が、「進学しても女の子はキャバクラに行く」と発言して炎上しました。

この発言の背景には、女性に対する蔑視、貧困に対する無理解、職業差別など様々な偏見に基づく差別感があると考えられます。

この問題を解説します。




1 事件の概要

執筆日時:

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筆者:柳川

朝日新聞の報道(※)によると、自民党の国会議員が「高校も大学もみんなが援助するのは間違っている」「とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き、やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか」と発言したされる。また、この報道によると、この議員は「望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になる」との持論を展開したとのことである。

※ 2016年4月12日 朝日新聞「『進学しても女の子はキャバクラへ』自民・赤枝氏発言」

この議員の発言は、ネット上で、一部に支持する声があったものの、多くの批判を浴びることとなった。

この議員の発言が批判を浴びたのにはいくつか理由がある。私が考える問題をいくつか思いつくままに挙げてみよう。

2 問題点


(1)女性に対する根拠のない偏見

女性が進学してもキャバクラに行くと断言しておられるが、どのような根拠をもって言っておられるのであろうか。何か統計データでもお持ちなのだろうか。進学した女性のうちどの程度の割合の女性がキャバクラで働くというのであろうか。お断りしておくが、いくつかのそのような例があるというだけでは、この発言の内容は、論理的に成り立たない。

そのような根拠もなしに言っているとすれば、これは単なる偏見に基づくものとしか言いようがない。そのような偏見によって政策(就学援助)の必要性を判断しようとしているのであれば、議員としての資質に問題があるというべきである。もし、根拠があるというなら、ぜひ示して頂きたいものである。


(2)貧困に対する無理解

確かに、進学して、親からの支援がないために風俗で働く女性は、現実にいないわけではないだろう。そのような例があること自体は私も否定しない。しかし、それは彼女たちを非難する理由にはならない。むしろそのようなことが起きる国(社会)の在り方こそが非難されるべきなのである。そのようなことが起きないように、国の就学支援制度の在り方を考えるのが国会議員の仕事であろう。この議員は国税から収入を得ている、自らの仕事が何かをわきまえていないというべきではなかろうか。

また、「望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になる」とのことだが、そのような女性には生活支援が不要だという趣旨だとすれば、とんでもない話である。(特殊なケースは別として)貧困の理由は問わずに、支援が必要な国民(場合によっては外国人を含めて)に対して一律に支援するのが、国の政策であるべきであろう。望まない妊娠をして離婚した者も日本国民なのである。そして、日本の国民のために仕事をするのが国の仕事であろう。このようなところに自己責任論を持ち出すべきではないのだ。


(3)職業に対する差別意識

議員にはキャバクラで働く女性は"問題のある者"という意識がおありのようだ。しかし、そのような考えは、2つの意味で不適切なものであると申し上げておきたい。

ひとつには、望まずしてそのような職場で働いている女性もいるはずだということである。そのような女性に対しては、このような考え方は冷酷以外のなにものでもない。また、二点目は、キャバクラにはプロ意識を持って、誇りをもって働いておられる女性もおられるであろう。そのような女性に対して、大変に非礼な考え方であるということである。

ご自身は、医師の資格を持ち国会議員という職についていながら、社会の底辺で必死に生きている女性を揶揄するようなことは、議員としてというよりも前に、人間としていかがなものであろうか。


(4)品位に欠ける発言

全体的に見て、この議員の発言は品位に欠けるというべきである。一定の品位を保つことは、国会議員のような職業に携わる者にとって必要不可欠なものであろう。このことからもこのような発言は、議員としてふさわしくないというべきである。


(5)論理性の欠如

この議員の発言は、ある市民団体からの就学支援への要望に対して行われたものである。その要望とは、進学したいにも拘わらず経済的な理由でそれがかなわない若者に対する支援である。それに対して「仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行」く若者のことを持ち出すのは、やや非論理的というものであろう。

要望の対象となっている若者たちは「進学したいが経済的な理由でできない」のであり、議員の言う若者は「進学したくないが親が費用を負担して進学させた」のである。まったく逆である。意図的にすれ違った回答をしているなら別だが、そうでなければ論理的な思考能力が欠如しているのである。論理的な思考ができないようでは、国会議員という国の立法府の責任者として不適格というべきである。


3 まとめ

この議員の発言は、他山の石とするべき貴重なドキュメントだという意味では大いに価値のある発言ではある。基本的に、社会的な弱者への偏見を持った発言は避けなければならない。どうしても発言をしたいのであれば、十分な根拠をもってすべきであろう。