- 1 事件の概要
- 2 問題点
- (1)未成年者の行為に対して行うべきことではない
- (2)批判の内容があまりにも現実離れしている
- (3)この女子高生は非難されるようなことはしていない
- (4)テレビ局も捏造などしていない
- 3 まとめ
1 事件の概要
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筆者:柳川
最近でも、ある女子高生があるテレビ局のインタヴューで自らの貧困について話したところ、その女子高生のSNSの過去の発言が問題となってネットで炎上したケース(※1)がある。この事件の異常なところは、市会議員や自民党の有力な国会議員である片山さつき議員までがこの未成年者を対象とする炎上(※2)に加わっているところである。
※1 2016年8月14日 毎日新聞「『貧困女子高生』に批判・中傷 人権侵害の懸念も」
※2 2016年8月31日 AERA.dot「片山さつきも参戦! NHK貧困JKバッシングの嫌な感じ」
この片山議員はTwitterで、女子高生の話が不自然であるとして、「チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう」とTweetしたのである。片山議員のこの発言及びその後の一連の行動は、現実の報道機関でも、ネット上でも大きな批判を浴びた。
2 問題点
片山議員の発言にはいくつかの問題があると思われるが、私なりにまとめてみると以下のようなことであろうか。
(1)未成年者の行為に対して行うべきことではない
問題となったテレビ局のニュース(本稿執筆時点ではYou Tubeで見ることができた)をみると、この女子高生は、しっかりした女性であるという印象を受ける。しかし、一般論ではあるが、未成年者の場合、炎上の対象になれば精神的な疾病を発症することさえ考えられよう。国会議員や市会議員が、未成年者相手の炎上を止めさせようというなら分かるが、率先してこれに関わるとは、怒りを通り越して、まさにあきれるばかりである。
片山議員のtweetの内容そのものは、この女子高生の発言の内容が不自然だとするもので、形式的には人格攻撃とはいえないかもしれない。しかし、片山議員のこのツイートにつけられた賛成意見のリプの中に、他のツイートのリツイートをしているものがあり、それらからたどっていけるリツイートの中には、人身攻撃と思われるものや、「このjkの出身校と本名をチェック」というものもあった(※)。
※ その後、この議員からたどれる、この女子高生の住所や高校を明らかにしたツイートは削除された。
すなわち、大臣職にある者が、この高校生への批判を行ったことで、炎上がさらに激しくなったと考えるのが自然である。これでは"炎上"を煽っているといわれても仕方がないだろう。
未成年者を相手に、国会議員がするようなこととは私にはとうてい思えない。
(2)批判の内容があまりにも現実離れしている
女子高生の発言が不自然だと片山議員が主張する理由は、この女子高生が貧困だというにも拘わらず、物を持っていたり、演劇鑑賞をしたりしているからということだが、そのようなことは不自然でも何でもない。
ここからは私自身の個人的な経験だが、私も経済的な理由で全日制の高校への進学をあきらめている。しかし、子供の頃、近くに叔母が住んでいて夏休みと正月に小遣いをくれたものだ。今でも覚えているが、夏が400円で正月は500円だった。少額だと思うかもしれないが、10円あればアイスクリームが買えた時代である。夏休みが40日で、毎日アイスクリームが買えるようにとの配慮だった。
しかし、私はアイスクリームを買ったりはしなかった。一方、高校進学のために貯金をしようとも思わなかった。兄の分と合わせて、そのころ流行っていたプラモデルを買ったのである。子供というものは、そういうものなのだ。合理的な行動をするとは限らないのである。また、叔母からは小学校の卒業祝いに万年筆を、中学校の卒業祝いには腕時計をもらっている。だから、私もそのような意味で「物」は持っていた。しかし、それを節約して高校へ進学できるなどと考えるのは、ゴムボートで日本海を横断できると思うくらいにばかげている。
もう30年近く前になるが「一杯のかけそば」という短編小説が流行ったことがあった(※)。この小説は実話であると銘打っていたが、不自然というのはこういうもののことをいうのである。貧しい生活をしていても、子供というものは意外に物を持っていたりするものなのである。
※ この小説については様ざまな評価があるようだが、私自身は、この小説は貧しい者に対する差別文書だと思っている。
数千円のグッズを持っているからという理由で、専門学校へ行けないのは不自然だという趣旨の発言をするようでは、庶民の生活に対する理解がないといわれてもしかたがないだろう。はたして国会議員として適任なのかと疑いたくもなろうというものである。
(3)この女子高生は非難されるようなことはしていない
2016年8月18日NHK「ニュース7」画面より
そもそも、どう考えても、この女子高生は批判されるようなことはなにもしていないのである。自治体の会議に呼ばれて発言したところ、某テレビ局の取材を受けたので、自宅で自らの生活状況についてカメラの前で話をしたというだけのことである。自分に就学援助をして欲しいなどとは、一言も発言してはいないのである(※)。
※ 発言したとしても、非難されるようなことではないが。
積極的に虚偽の発言をしたというならともかく、その後のどの報道機関のニュースを見ても女子高生が虚偽の発言をしたというものはない。そもそも、片山議員もそのような証拠はなにも示していない。「あれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう」とほのめかしているに過ぎないのである。むしろビジネスジャーナル誌のお詫びと訂正に記載されているように、虚偽の発言などはなかったのである。なんのことはない、未成年者に向かって「嘘をついた」と報道した機関の方が、虚偽の報道をしていたのだ。
この女子高生の行動様式は、確かに二宮尊徳のようではなかったのかもしれない。しかし、嘘はついていないのである。そもそも、いったい、日本のどこに二宮尊徳のような生き方をしている者がいるのだろうか。
(4)テレビ局も捏造などしていない
私は、このテレビ局を擁護するつもりはない。しかし、公平に見て本件に関して捏造があったとは思えない。このニュースは、地方自治体の会議に参加した高校生の発言を取材し、その中でその高校生にインタヴューをしただけのことである。前半の会議での発言にはテレビ局は関わっていないので何かを捏造できる余地はない。捏造する余地があるとすれば、後半のインタヴューの部分だが、インタヴューの相手の人選にも捏造の余地はあるまい。あるとすればインタヴューのときに、積極的に嘘をつけと高校生を唆した可能性だが、そんなことをしてもテレビ局にはなんの利益にもならないのである。
冷静に考えればわかることである。この高校生は実名で、顔も出しているのだ。どんな深窓の令嬢でも、自宅を知っている知り合いや、近所の住民もかなりいるだろう。「クーラーがない、パソコンがない」などという「うそ」を言わせたとすれば、発覚する可能性がきわめて高いのである。そして、虚偽報道などが発覚すれば、最近では大問題になることは明らかなのだ。合理的な判断ができる者であれば、誰もそのようなことはするはずがないのではなかろうか。
そもそも、この高校生に嘘をつかせるまでもなく、この日本中に、貧困な若者はいくらでもいるのである。ニュースの前半と後半を分けて、後半ではそのような若者にインタヴューをすれば、それで済む話なのである。
3 まとめ
この事件は、シングルマザーの家庭の子供がテレビのインタヴューに答えたところ、なんの問題もないにもかかわらず、いわれなき批判を浴びたという特異な例ではある。しかし、ホームページを運営する以上は、このようなことに巻き込まれるリスクがあることは、常に念頭においた方がよいと思う。
片山議員は、政治資金収支報告書で600万円分の修正を行っていたことが、総務省の報告書で判明している。また、市の条例に反して無許可の看板の設置をしたり、滋賀県行政書士会にカレンダー200部を無償で送付したり、またいわゆる「口利き疑惑」でも逃げ回っている。自らは、このような法令・条例に反するようなことをしておきながら、なんの落ち度もない未成年者に向かって「あれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう」などとSNSで攻撃する。
最近でも、東京五輪に際して、ブルーインパルスが風のために巧く五輪が描けないということがあった。すると、片山氏は、Twitterに、映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の画像を引用元の表示なしで、2021年東京五輪のときの画像と誤解させるようなやり方で投稿した。
これに対してフェイクだという批判が沸き起こったが、これには「プロトタイプ」を示したのだという反論にもならない反論をアップしていた。しかし、盗用ではないかという批判には素知らぬ顔をしている。著作権法違反という犯罪行為を犯したと考えるのが自然であろう。
こういう人間が大臣をしていたということが、日本人として情けないと思うのは、私だけだろうか。