共同親権の何が問題なのか


大人の男女と子供

※ イメージ図(©photoAC)

現在、我が国では未成年の子を持つ夫婦が離婚した場合、民法上の親権は一方の親が行使することになっています。ところが、多くの国民の不安(※)をよそに、自民党・公明党政権はこれを共同親権に変更しようという企てを行い、現在国会で民法の改正案が審議中です。

※ OVO 2024年03月14日「離婚後の共同親権賛成は2割 国会での民法改正案提出でアンケート」によれば、共同親権に賛成は賛成は20.3%、反対は34.5%である。

単独親権の制度を共同親権という制度に変更するということは、分かりやすく言えばそれまで親権を持たなかった親に親権を与えるということです。親権とは読んで字のごとく、子に対する親の支配権であって、子の自由な決定権を制限するものです。このような権利を離婚した親に与えても、与えられる親の利益になるだけで、子供の利益にはなりようがありません。

共同親権を推進しようとしているのは、杉田水脈議員や片山さつき議員など、戦前の家父長的な家族観を有する人びとが中心となっています。彼らは、多くの子供たちの犠牲の下に彼ら自身の家族観の実現を図ろうとしているにすぎません。

推進派は、離婚後も両親が共同で親権を行使することが望ましいとしていますが、その根拠は不明確です。現時点で親権を持っていない親が親権を有することとなったとしても、その親が子供の利益を中心に考えているのであれば、とくに変化は起きません。

問題は、子供のことを考えていない親が親権を有した場合です。子供の入院、就学、就職などに際して、許可や同意をすることと引き換えに金銭を要求されることも考えられます。場合によっては子供やその親への面会を強要して、DV やセクハラをするようなことも考えられます。

場合によっては、神経者の同意や許可が得られないため、子供が必要な治療を受けられなくなったり、就職や就学ができなくなったりすることも考えられます。それは、子供の自殺の増加の一因となることも考えられます。

繰り返しますが、共同親権は子供の権利を抑圧する制度であり、戦前の家父長的家族観を持つ自民党・公明党を満足させる以外、いかなる社会的な利益もない制度だと言えます。




1 単独親権制度から共同親権制度への法令改正

執筆日時:

筆者:平児

(1)親権とは何か

ア 親権の具体的な内容

親権

※ イメージ図(©photoAC)

親権(民法第818条)とは、一言でいえば未成年者の子に対する親の支配権である。法律的な根拠は、民法第4編親族第4章親権に定められている。

法令に定められている親権の具体的な内容には、次のようなものがある。

【親権の内容】

また、親権者は、民法818条824条の規定により、未成年者の子の法定代理人(民法5条)となり、その子のために法律行為を行うことができる。

さらに、治療のための手術や高校への進学などに当たって、病院や学校から親権者の同意を求められることも多い。すなわち、親権は、未成年者の子にとってきわめて大きな意味を持つ制度なのである。


イ 親権の目的と親が親権を行使できない場合

本来は、親権制度は、未成年で未熟な子を保護するためのための制度である。親は、子どもの利益のために、監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりすることが前提となっている(※)。夫婦の間が良好で、かつ親としての責任感と自覚(及び能力)が親にあることを前提とした制度なのである。もちろん、子よりも自分の利益を優先させる親がいないとも限らない=現実にはいくらでもいるのだが=ので、民法第834条などにより、親権喪失の審判の制度も設けられている。

※ 法務省「親権者」によれば、「『親権』とは、子どもの利益のために、監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限であり義務であるといわれています。 親権は子どもの利益のために行使することとされています」とされている。

もちろん、多くの場合、親権制度は適切に運用されているが、悪意の親がいれば、その子の人生をコントロールすることが可能になりかねない制度なのである。現実に、ネグレクトの親などが親権を有している場合、深刻な問題を引き起こすことがあるのは悲しいことに現実なのである。


(2)現行の離婚後の親権の制度

親権は原則として父母が共同で行う(民法第818条第3項)が、離婚する場合は、民法第819条の規定により、父母の一方を親権者と定めなければならないこととされている。

未成年者は単独では法律行為を行うことが原則としてできない(民法第5条)ので、離婚する場合は必ずどちらかの親を親権者に定めなければならない。

※ 離婚した場合は、実際に子供と暮らす側の親が子供の監護を行うことになり、この監護を行う者(監護者)が親権者となることが多いが、必ずしも監護者と親権者が一致するわけではない。また、子を扶養する者が、監護者や親権者ではないということもあり得る。

親権者になれば、親権を単独で行使できるので、引っ越し、進学、就職などの際に、もう一方の親の許可を取る必要がないのである。仮に、他方の親が親権を有してしまうと、子は、進学や就職に当たって、いちいち親権者の許可を得なければならなくなるのである。

なお、親権がないからといって面会交流ができないということではない。これは、離婚の際やその後に両親の間で協議して決めることが可能である。


(3)共同親権のための民法改正の状況

民法

※ イメージ図(©photoAC)

法務省は、離婚後の夫婦の共同親権を認めるための「民法等の一部を改正する法律案」(家族法制の見直しに関する要綱案(修正案))を、2024年(令和6年)3月8日に国会へ提出した。

親権者の規定については「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める」とされ(※1)、共同親権を認めることとされている。ここでの最大の問題は、法施行前に離婚している場合であっても、共同親権を認めることができることである(※2)。すなわち、ある日、突然、離婚した相手側から共同親権の訴えを起こされる可能性があるということだ。

※1 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定めることとされている。

※2 朝日新聞2024年3月9日「すでに離婚した夫婦も「共同親権」を選択可に 民法改正案を国会提出

例えば、DV で元の配偶者から逃げている場合であっても、訴えられて放置しておくと訴えがそのまま認められてしまうおそれが高い。原告がその住所地の改定裁判所に訴えた場合、被告側が遠く離れたところに住んでいると裁判所に移動するだけでも大変な費用が掛かることになる。また、単親世帯の収入はきわめて低いことも多く(※)、代理人を頼むために、被告側が食事もできなくなるということも予想できるのである。

※ 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」(2022年)によると「母子世帯数は 119.5 万世帯(前回 123.2 万世帯)、父子世帯数は 14.9 万世帯(同 18.7 万世帯)で、平均年間収入(母又は父自身の収入)はそれぞれ 272 万円(同 243 万円)、518 万円(同 420 万円)、世帯の平均年間収入はそれぞれ 373 万円(同 348 万円)、606 万円(同 573 万円)でした」とされている。

とんでもない悪法であり、子供の人権を侵害し、その人生を破壊するものだといえよう。

さらに、親権を有する親が再婚した場合、子供を新しい配偶者の養子にするためにも、親権者の同意が必要となる。このため、子が望んでも新しい配偶者の養子になることができず、その配偶者が亡くなっても遺産相続をすることも不可能になってしまうという問題もある(※)

※ テレ朝NEWS 2024年4月15日「「共同親権」離婚済みでも遡って“選択可”再婚は元配偶者と“子の縁組”交渉?」など参照


2 離婚後の共同親権制度の問題点とは

(1)子供にとってのメリットは何もない

ここまでの説明から分かるように、親権とは親側の権利であって、子どもの権利を制限する制度である。未成年者の場合は、本人の意思のみで法律行為を行ったり、進学や就職を行うと、かえって本人のためにならないこともあるので、親権者が後見的に行動しようという制度なのである。

そして、両親が結婚して良好な関係を築いている場合は、共同親権の制度が望ましいケースが多いであろう。1人の親権者より2人の親権者がいた方が、一人の親権者が悪意だったり、ミスを犯した場合に是正されることが期待できるからである。

しかし、両親が離婚している場合、共同親権にすることのメリットは何もないといってよい。子供の監護をしていない親が、進学や就職に際して、監護をしている親よりも適切な判断をできるということは実際上は考えにくい。

そればかりか、進学や就職に際して、子の監護をしていない親権者の許可を取らなければならないのでは、きわめて煩瑣な手間をかけることとなる。そればかりか、その親権者が子や元の配偶者に対して、面会を強要したり、場合によっては金銭を要求するようなことも考えられよう。

これでは、子は自由に進学や就職さえできなくなってしまう。そればかりか、必要な入院治療さえ受けられなくなる可能性が高い。子どもの人権という観点から、きわめて問題の多い制度だと言えよう。

繰り返すが、共同親権の制度は、戦前の家父長的な家族観を理想と考える自民党右派及び公明党の議員らが、その「理想」へ日本の家族制度を近づけようとして導入をしようとしている制度なのである。離婚した親に新たに親権を付与することによって、子の権利を制限する制度なのである。


(2)共同親権による具体的な問題点

ア 親による DV やセクハラから逃げられなくなる可能性

今回の民法改訂では、改正法施行前に離婚した親の場合にも「共同親権」とすることが可能となる。ただし、親権の変更は家庭裁判所の調停又は審判による(民法第816条第6項)こととなる。このため、DV や子へのセクハラを行っている親から、家庭裁判所へ調停・審判を求めて申し立てを行われる恐れがあるのだ。

調停を起こす親は、元の配偶者(もう一方の親)を相手として申し立てを起こすこととなる。調停の申立てをする管轄裁判所は、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所となる。

ここで、訴える親の DV 等が原因で、元の配偶者と子が逃げていると、調停は双方の話し合いが行われることが前提であるから、そもそも調停は不可能である。そのため、審判を申し立てることになるが、その場合の申し立て先は子の住所地の家庭裁判所となる(家事事件手続法第167条)。審判であってもその告知は公示送達(※)の方法ではできない(家事事件手続法第285条第2項)ので、子の住所がわからなければ弁護士経由で関係地方自治体に紹介することとなる。

※ 相手側の住所がわからなかったり、そもそも相手側が分からない場合に、裁判所の掲示板に書類を掲示しておくことで、相手に知らせたことにする制度である。

このため、住所の変更の届出を市町村に行っていると、住所地が申し立てを行おうとする親に知られてしまう可能性があるのだ。

一般に DV を行っている者の特徴として、DV の対象に執着していることが多く(※)、今回の共同親権の制度は、DV 被害者に対して深刻な問題を引き起こす恐れが多いと言えよう。

※ 法務総合研究所「配偶者暴力及び児童虐待に関する総合的研究」(2008年)など


イ 共同親権を申し立てられた場合の費用負担

親権変更の審判そのものは、子ども1人に対して 1,200円(収入印紙の貼付)でできるのだが、現実には、仕事を休んで参加したり、まして弁護士に相談したりするとかなりの費用がかかることとなる。さらに親権者と子の住所が異なれば、移動のためのコストも必要になる。

単親世帯の収入は、とりわけ女性の親の場合、通常の世帯の収入よりもかなり低いことが一般的である。さらに、会社を休むことで解雇されたりすれば、食費や衣服の購入にも支障をきたすことになりかねない。

親権変更に関する審判では、子が15歳以上の場合、必ず子からの意見を聴取することとなっている。子が親を憎んでいる場合など子に精神的な負担をかけることも考えられよう。


ウ 子の進学、就職、入院受療などが困難となるおそれ

(ア)子の進学、就職、入院受療などで許可を取る必要が出てくる

共同親権が家庭裁判所の審判で認められてしまうと、子が進学、就職、入院加療などが必要となったときに、新たに親権を有した親の許可を得る必要がでてくる(※)。そして、その親は、通常は子を監護していない側であろう。

※ 東洋経済2020年04月03日「「共同親権」は子ども視点で見ると大問題だ

この場合、子を監護していない親が、許可と引き換えに子や元配偶者に面会を要求したり、極端な場合は金銭を要求することも考えられる。

その場合、子や配偶者が DV やセクハラ等の被害を受ける子とも十分に予測されるのである。かつての DV が激しければ、許可を受けることができずに、進学や就職をあきらめたり、必要な治療を受けられなくなることも考えられよう。

共同親権は、このような DV やセクハラを行う親に対して強力なツールを与えることとなろう(※)

※ PRESIDENT Online 2024年4月20日「現行法でも「共同親権」は選べるのに…DV加害者の武器となりリスクが増えるだけの改正案はいったい誰得なのか」、Web日本評論 2024年2月6日「離婚後共同親権は、子どもを追い詰め、希望をふさぐ(熊上崇)」、女性自身 2024年3月28日「「共同親権」ではわが子の命守れない…DV夫でも面会許可、手術にも同意が必要」など


(イ)子の入院受療などが困難となるおそれ

手術については、条文では「急迫時」は同居親のみで決定できることとなっているが、ここでいう急迫とは、「手術まで2~3ヶ月あれば急迫ではない」(※)とされている。これでは、新しく親権者となった親が、許可を取引材料としようとしたり、手術に理解を示そうとしなかった場合、現実に手術は不可能になってしまう。

※ 2024年(令和6年)3月14日衆議院本会議において、米山隆一議員の「離婚後共同親権の場合、ある種の小児の心臓手術のように、2か月から3か月程度の範囲で手術日を選ぶ場合、「急迫の事情」があるとして母親の同意だけでよいのか」という質問に対して、小泉龍司法務大臣は「直ちにあたらない。協議等ができずに手術日が迫ってきた場合は、当たりうる」と回答している。

自由法曹団「共同親権における問題点のポイント(衆議院法務委員会)」による。

現に、家庭裁判所から面会を禁止された父親が、3歳の子の手術について、説明や同意がなかったとして滋賀医科大を相手取って民事損害賠償請求を行った訴訟で、一部勝訴の判決が出ている。このような状況では、医療機関の側も親権者の許可がないと手術をしにくいという現状があるのだ。

※ 毎日新聞2022年11月17日「娘への手術、面会禁止された父親の同意なしは違法 大津地裁判決

共同親権の制度は、子の生きる権利を奪いかねない制度であるということができよう。


エ 子を監護する親が再婚したとき養子となれない恐れ

離婚した後、子を監護する側の親が別な伴侶と出会って結婚することには当然のことながら制限はない。この場合、子を監護する親の氏(姓)が相手側と同じになったとしても、その子の姓が自動的に親と同姓となるわけではない(※)。そればかりか、子の戸籍は親と別になってしまうのである。

※ 家庭裁判所の許可を取ることによって、比較的容易に姓の変更が認められる(民法第791条第1項)。また、許可を得るまでもなく父母の婚姻中に限れば親と同姓を名乗ることも可能である(同第2項)。ただ、この場合、父母と同じ戸籍に入るわけではない。

親と別な戸籍になることで、子が結婚等で差別を受ける恐れがあり、子を再婚相手の養子にしたり、再婚相手の戸籍への子の入籍届を出す(再婚相手と同じ姓となる。)ことがよく行われている。

子が再婚相手の養子になれば、再婚相手と親子関係になるので遺産相続についても法定相続人となることができる。

ところが、子が15歳未満の未成年者の場合、養子になるには監護権者ばかりでなく父母の同意も必要となる(※)のである(民法第797条第2項)。

※ 特別養子縁組については、原則として養子となる子の実父母の同意が必要である。 ただし、実父母がその意思を表示できない場合、又は、実父母の虐待、悪意の遺棄その他養子となる子の利益を著しく害する事由がある場合は、同意は不要とされている。

そして、法務省の要綱案(修正案)では、家庭裁判所は「養子縁組をすることが子の利益のため特に必要があると認められるときに限り」この同意に代わる判断をすることができることとされている。そして「養子縁組をすることが子の利益のため特に必要があると認められる」ことは、子の側に立証責任があるのである。これでは、事実上、養子縁組が認められないだろう。

【未成年養子縁組及びその離縁の代諾に関する規律】

2 未成年養子縁組及びその離縁の代諾に関する規律

(1)ア 養子となる者が15歳未満である場合における民法第797条第1項の規定による養子縁組の代諾の上記第2の1の規律による父母の共同行使について、父母間に協議が調わない場合においては、養子縁組をすることが子の利益のため特に必要があると認められるときに限り、家庭裁判所は、上記第2の1⑶の規律による裁判をすることができるものとする旨の規律を設けるものとする。

イ 養子縁組をすることが子の利益のため特に必要であるにもかかわらず、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるもの又は養子となる者の父母で親権を停止されているものが民法第797条第2項の規定による縁組の同意をしないときは、家庭裁判所は、養子となる者の法定代理人の請求により、その同意に代わる許可を与えることができるものとする旨の規律を設けるものとする(注)。

※ 法務省「家族法制の見直しに関する要綱案(修正案)」(2024年3月)

オ 子の転居が困難となるおそれ

また、先述したように親権には、居所の指定(民法第822条)が含まれるのである。

これでは、子は DV やセクハラを行う親の指定する住所に住まなければならなくなる。また、自分の入りたい学校や就職したい会社が、その近くになければ進学や就職も希望通りにできなくなってしまう。

繰り返すが、親権とは、読んで字のごとく(子に対する)親の権利であり、子の自由な行動・行為を制限するものなのである。通常であれば、子の利益のために行使されるものであろうが、離婚した親には DV など問題のある者もいるだろう。それらの者に子を支配する権利を与えればどうなるかは目に見えている。

子の自由は不当に制限され、人権は侵害され、DV やセクハラの犠牲になることは確実である。


カ 社会福祉制度から除外される恐れ

先述したように、共同親権が認められると、子の監護を行っていない親が、入学や就職などの許可を出すことと引き換えに、金銭の要求や面会の要求をするおそれを否定できない。また、様々な許可をすることと引き換えに養育費の支払いの免除を要求するケースもあるだろう。

要するに、「そんな学校へ入りたいんだったら、許可はしてやるが、その代わり今まで払っていた養育費は出さないからな」というわけだ。

ところが、共同親権が認められると、高等教育無償化は、原則として元夫婦の収入を合算して受給資格の認定を行うことになるため、単独親権の時と比べて受給しづらくなるのである。2024年4月12日の衆院法務委員会で、共産党の本村伸子衆院議員の質問に対して、阿部俊子文科副大臣が次のように回答しているのである。

【高等教育無償化に関する国会での質疑】

共産党 本村衆院議員 「『共同親権になったら(高等)教育無償化ではなくなるの?』という不安の声も出されています」

あべ文部科学副大臣 「保護者の収入に基づいて受給資格の認定が行われるところでございまして、保護者の定義、子に対して親権を行うものと定めております。そのため今回の民法改正後に共同親権を選択した場合においては、親権者は2名となることから、親権者2名分の収入に基づいて判定を行うことになります」

共産党 本村衆院議員 「DV虐待ケースだけではない。高葛藤で話もしないというような形で離婚をする場合などですね、2人の親権者の所得で計算されてしまうと、やっぱり現状よりも子どもとともに暮らす親御さんひとり親世帯への経済的負担が増えたり労力が増えるということになるんじゃないですか」

※ KHBニュース 2024年4月12日「【共同親権】で高校無償化・児童手当は?夫婦もめたら親権は?…国会審議からひも解く

現実には、母子世帯で「現在も養育費を受給している割合」は 24.3 %にすぎないとする調査結果もある(※)。しかし、共同親権が認められてしまうと、養育費を出さない親権者の収入も「あるもの」として考慮されてしまうのである。

※ 石塚理沙「離婚後の共同親権について」(立法と調査 No.427 2009年9月)

なお、「DVや児童虐待などで修学に必要な経費の負担を求めることが難しい場合は、親権者1人の収入で判定することになっている」とされているが、そのためには家庭裁判所で DV が認定される必要がある。現実には、DV の認定など難しいというのが現実である。


キ この財産権を侵害するおそれ

また、現在の家族制度の下では、未成年の子が相続によって巨額の財産を得ることもあり得よう。単独親権の親とその親(祖父母)が死亡すると、財産を相続することが考えられるのである。

また、親と祖父母が生存している場合であっても、高校や大学への入学や起業に当たって、巨額の財産を贈与されることもあり得よう。さらに、未成年者であっても、事業を起こしたり芸能活動を行ったりすることにより巨額の財産を手に入れることもあり得る。

共同親権制度が導入されていると、この子の財産の管理を行うことを理由に子の財産を費消されてしまうことも考えられるのである。

親と未成年者の子というと、親の方が子を扶養するというイメージを持ちやすいが、IT 関連の起業や芸能活動によって子の方が資産を持つことも考えられるのである。


3 なぜ離婚後の共同親権制度を導入するのか

(1)共同親権制度導入の目的

参議院常任委員会調査室・特別調査室の「離婚後の共同親権について」(※)によると、共同親権の目的は次のようなものであるとされている。

※ 石塚理沙「離婚後の共同親権について」(立法と調査 No.427 2009年9月)

【離婚後の共同親権の目的】

我が国では、子が未成年の場合、婚姻中は父母が共同して親権を行使するが、離婚したときは、父母どちらかの単独親権となる。離婚後も父母双方が子育てに適切に関わることが子の利益の観点から重要であるとされているが、現状では、面会交流の実施状況や養育費の支払率は低調である。また、単独親権は子育ての意思決定はしやすいが、親権を失った親が養育に関わりにくく、子との交流が絶たれるケースも少なくないとの指摘もされている。離婚後も父母双方が子の親権を持つ共同親権であれば、離婚後も父母双方に子の養育責任があることが明確になり、円滑な面会交流や養育費の支払い確保が期待されることなどから、近年、離婚後の共同親権の法制化を求める声が高まっている。

※ 石塚理沙「離婚後の共同親権について」(立法と調査 No.427 2009年9月)

これを読めば分かるように、政府は離婚後の共同親権の目的を、①面会交流の実施促進と、②養育費の支払率の向上だとしているのである。


(2)共同親権導入のメリットは幻想にすぎない

ア 面会交流の促進は、DV の促進である

このうち、①面会交流の実施促進は、レイシストの杉田水脈議員(※1)、片山さつき議員、櫻井よしこ氏(※2)などが強く主張していることである。ここに挙げた人々は、戦前の家父長的な家族制度を理想としていることからも、この制度の本質が分かろうというものである。

※1 東京新聞 2024年3月30日「「公安の協力で締め出せ」 杉田水脈氏、一部有識者巡り

※2 櫻井よしこの言論テレビ 2023年9月8日「法務省「共同親権」案のカラクリをあばく

しかしながら、何度も指摘しているように、DV やセクハラを行う親に面会交流権を保証してしまえば、子やもう一方の親に深刻な人権被害をもたらすことは明らかである。そもそも、現行制度の下においても面会交流は実現が可能なのである。あえて共同親権制度など持ち出す必要は全くないといってよい。


イ 養育費の支払率の向上など起き得ない

また、政府は共同親権制度を導入することによって、養育費の支払い率が増えると主張するが、これなど全くの幻想にすぎない。

石塚の前掲書によれば、女性の単親世帯で養育費の取決めをしている割合は、42.9 %にすぎない。取り決めをしていない理由は、「相手と関わりたくない」が最も多く31.4%である。次に多いのは「相手に支払う能力がないと思った」20.8%、「相手に支払う意思がないと思った」17.8 %である。

これらの理由を見る限り、共同親権制度を導入したからと言って、養育費の支払い状況が改善されるとは思えない。むしろ、先述したように、親権行使と引き換えに養育費の支払いを拒む例が増えるだけであろう。


4 最後に

以上の説明から分かるように、共同親権とは、これまで親権を持たなかった親に親権を付与するものなのである。そしてその親権とは、読んで字のごとく親による(子への)権利であって、この自由と権利を制限するものなのだ。

このことは、自民党内の共同親権推進派が、法制審議会家族法制部会が2022年8月の第19回会議でまとめようとした中間試案に対して政治的な圧力を加え、共同親権の導入をより鮮明にした「家族法制の見直しに関する中間試案」へ変更させたことからも分かる。

こんなものをなぜ親権者に与えるかといえば、片山さつき議員や杉田水脈議員のような戦前の家父長的な家族制度を理想とする右派の理想のためであろう。まさに子供の人権を犠牲にして自らの特殊な理想である「親が子を思い通りにする権利」を実現しようとしてるに過ぎない。

日本乳幼児精神保健学会も2022年6月の声明(※)で「離婚後の共同親権には養育の質を損なうリスクがある」と指摘している。

※ 日本乳幼児精神保健学会「離婚後の子どもの養育の在り方についての声明」(2022年6月)

国際的にも、離婚後の共同親権を導入した国で見直しの動きが進んでいるとされる(※)。このような状況で、共同親権制度をあまりにも性急に導入しようとすることはきわめて問題が大きいと言わざるを得ない。

※ 東京新聞 2021年7月1日「離婚後の「共同親権」導入していいの? DV被害が続く懸念 法改正した欧米でも見直しの動き


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