- 1 はじめに
- (1)沖縄知事選の結果
- (2)沖縄とヤマトと普天間返還問題
- (3)ヤマトによる沖縄へのヘイト
- (4)日本政府等の各種選挙運動での傲慢さ
- 2 安倍総理(当時)は"真摯に"沖縄県民の民意を無視する
- (1)沖縄知事選後の安倍総理の発言
- (2)安倍総理は沖縄県民の意思を無視
- 3 普天間基地を国外に移転することは国益にかなう
- (1)そもそも普天間移転はなぜ始まり、誰が望んでいるのか
- (2)辺野古移転で最も利益を得るのはだれか
- (3)普天間を国外に移転することは可能
- 4 何をなすべきか
- (1)沖縄に基地があることの意味を理解する必要がある
- (2)沖縄県民の意思を尊重するべきである
1 はじめに
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筆者:柳川
(1)沖縄知事選の結果
2018年の沖縄知事選は、沖縄県知事選史上最高得票数という事前の予想を大きく超える得票数を得て玉城デニー氏が新知事となった。得票差も大きく、玉城氏が396,632票、佐喜真氏が316,458票と、約8万票の大差がついた。
朝日新聞と沖縄タイムスの出口調査によると、投票で基地問題を最も重視した県民の83%が玉城氏に投票しており、経済の活性化を最も重視した県民の76%が佐喜真氏に投票したとされる。
その意味するところは明確である。沖縄県民は普天間基地の辺野古移転に対して、はっきりと反対の意思表示をしたのだ。玉城知事の得た票は辺野古移設反対の意思表示であり、佐喜真氏が得た票は、決して辺野古新基地に賛成という意思表示ではないのである。このことは、佐喜真氏が、選挙期間中、普天間を米国に返還しようとは言っておられたが、辺野古に新基地を作るとは一言も言われなかったのであるから、そのことからも明らかであろう。
因みに、同じことは同じ年の2月の名護市長選挙についてもいえるだろう。2018年2月5日付けのLITERA(※)の記事によると、渡具知現市長の応援に行く自民党の国会議員に対して、自民党が渡していたメモに次のように書かれていたそうだ。
※ 2018年2月5日LITERA記事「名護市長選で卑劣すぎる基地問題隠し! 自民党が「辺野古の『へ』の字も言わない」と指示した内部文書が発覚」による。
【自民党が渡具知候補の応援に行く国会議員に渡したメモより】
NGワード・・・辺野古移設(辺野古のへの字も言わない)
オール沖縄側は辺野古移設を争点に掲げているが、同じ土俵に決して乗らない(あくまでも生活の豊かさ目線で)
★普天間基地の米軍機の事故・トラブルが続く中でも、『だから一刻も早い辺野古移設』などとは言うべきでない
※ TBS9月1日報道より
このような争点隠しが行われていた以上、渡具知現市長の当選も、辺野古新基地建設について、名護市民が賛意を表明したとは言えないというべきである。
(2)沖縄とヤマトと普天間返還問題
ア 沖縄とヤマトのすれ違い
私は、かつて国の行政機関の職員として、沖縄で2年3か月間に渡って過ごした経験がある。この期間は、私の行政勤務の中でも、楽しく仕事ができた時期であった。沖縄県民である職員は、我々、ヤマトの人間を温かく迎え入れてくれたのである。
そして、ヤマトから来て沖縄に住んでいればこそ、ヤマトからも沖縄からも見えないものが見えることもあったと自負している。そのひとつは、同じ言葉を使っていても、沖縄とヤマトでは意味が異なる場合があるということだ。
断っておくが、“隣人”とか“フェンス”などという単純な言葉のことを言っているのではない(※1)。ましてや、沖縄フリーク本によく出てくる“味噌汁”や“ポーク”の話をするつもりもない(※2)。
※1 沖縄の地元2紙の記事の見出しに“隣人”と書いてあれば、特に注釈がなければ米軍のことを指す。“フェンス”は分かると思うが“フェンスの向こう側”と言えば米軍基地のことである。その本来の意味でこれらの言葉を使うときは、注釈を付けなければ沖縄では理解されないだろう。
※2 沖縄の大衆食堂で“味噌汁”を注文すると“味噌煮込み定食”が出てくる。因みに“おかず”とは通常の“定食”のことで、“ぜんざい”とは“氷小豆”のことを指す。しかし、沖縄で“ポーク”といえば“ランチョンミート”のことだとは、ヤマトでもよく知られているのでご存知の方も多いだろう。
もちろんこれらは“沖縄語”ではない。ヤマトの言葉がヤマトとは異なった意味でつかわれているに過ぎない。
ここで言いたいのは、“基地推進派”と“基地反対派”という2つの言葉である。沖縄とヤマトでは、微妙に意味が異なっており、それを日本国政府ばかりか、地元でも理解していないのではないかと思えることがあるのだ。
イ ヤマトの基地推進派
(ア)マトの基地推進派とは
ヤマトが考える“基地推進派”とは、国の「安全保障」の上で米軍基地が必要だと考え、米軍基地を日本に置くべきだと主張している人々のことである。日本が他国から軍事侵攻を受けることがあると(たぶん)本気で考えており、日本が軍事侵攻を受けると米軍が助けてくれると(無邪気に)信じているらしい。
また、ヤマトの“基地推進派”は、地政学的に米軍基地が沖縄になければならないと、とくに疑うこともなく信じていることが多いようだ。分かりやすく言えば、ヤマトの“基地推進派”とは“沖縄米軍基地バンザイ派”なのである。
彼らの多くは、米国が日本を助けるために沖縄に駐留していると主張している。たぶん本気でそう思い込んでいるのだろう。
(イ)ヤマトの基地推進派の誤り
① アメリカが日本のために戦争をするわけがない
もちろん、実際には、日本が他国から軍事侵攻を受けることなど客観的にみてほぼあり得ないし、仮に受けたとしても、米軍が日本のために戦争をすることもまずあり得ない。米国議会が日本のために戦争をすることを認めるわけがないからだ。
要は、米軍がそこにいるのは、彼らの軍事戦略上の必要性からであって、それ以上でも以下でもない。日本政府は、その米軍の駐留のための費用として、我々が納付した膨大な税金をつぎ込んでいるのである。
② 米軍の存在は、日本の安全につながらない
また、米軍がそこにいるから周辺国家が攻め込んでこないというのもかなり疑わしい。米軍がいれば誰も攻め込んでこないというなら、2001年のアルカイダによる米国同時多発テロはなぜ起きたのだろうか。
また、このテロの後で、沖縄への修学旅行客のキャンセルが相次ぎ、沖縄の経済が冷え込んだ。なぜヤマトの人々は米軍基地が最も多くあって、最も安全なはずの沖縄への旅行を見合わせたのだろうか。
また、なぜ米軍基地を守るために、全国の警察組織から沖縄へ機動隊員が送り込まれたのだろうか。それは、米軍基地があることで攻撃される危険があることを、日本国政府が認めているからではないのだろうか。
③ 軍隊の持つ抑止力など夢想に過ぎない
そもそも他の国に攻めこんで戦争を始めようなどという国家や組織には、相手国に強力な軍隊があるからやめておこうなどという、理性的な判断はできないのである。1941年にパールハーバーを攻撃した日本が、まさにそのよい例であろう。
ウ 沖縄の「基地推進派」
(ア)沖縄の「基地推進派」とは
① 沖縄に米軍の基地ができた経緯
まず、はっきりさせておこう。沖縄にはヤマトで考えられているような「基地推進派」は、ごく例外的な一部の人々を除いて存在していない(※)のである。沖縄では“基地推進派”の多くは「基地容認派」、言葉を換えれば「現時点ではしかたがないだろう派」にすぎないのである。
※ もちろん、例外はいる。今回の知事選候補の佐喜真氏はまさにその数少ない例の一人と言ってよいだろう。氏は、「自衛隊の憲法明記」「安保法の推進」「集団的自衛権の行使」を主張する日本会議の正式な会員である。だからこそ、安倍総理は、佐喜真氏を政権の総力をあげて押すのであろう。
それを説明するには、沖縄の基地の歴史から簡単に説明する必要がある。分かり切ったことだが沖縄の基地は、沖縄県民が欲したものではない。意外に思うかもしれないが、読谷補助飛行場と嘉手納飛行場は、最初は米軍ではなく旧日本軍(あるいは日本政府)が設営したのである。沖縄戦の準備段階において、日本軍中央は沖縄の軍部隊に対して軍用飛行場の設営を命じたのである。
もちろん、当時の状況を冷静に判断すれば、そもそも日本には沖縄で飛ばせる飛行機などなかったし、仮にあったとしても制空権は完全に米軍が握っていたのであるから、離陸する前に破壊されるのが関の山である。まったく意味のない行為だった。
米軍が沖縄に上陸すると、この飛行場をこれ幸いとばかりに整備して利用した。なんのことはない。日本軍は、米軍に飛行場をプレゼントしただけだったのだ。沖縄の米軍の飛行場はこのような経緯でできたのである。
② 米軍による沖縄政策
そして、1972年の施政権返還まで、法的には沖縄の主権は米軍に存した。ヤマトが高度経済成長に浮かれ、新憲法の下で新しい国づくりに励んでいた頃、沖縄では主権が県民にはない状態で戦争からの復興を図らなければならなかったのである。
なお、"施政権返還まで沖縄はアメリカだった"と考えるとすれば、それは明確な誤りである。沖縄がアメリカだったのなら、沖縄県民は米国憲法の保護のもとにおかれたはずだ。もちろんそのようなことはなかった。当時、沖縄の船舶は日章旗も星条旗も掲げることは許されなかったのである。そのため、1962年に沖縄の船舶がインドネシア軍から不審船として銃撃を受け、1人が死亡、3人が重軽傷を負うという事件まで起きているのだ。
そして、米軍の施政下において、米軍は沖縄の経済を、基地を中心とした構造、言葉を換えれば基地を支えるための構造に作り替えようとしたのである。さらに言うなら、為替レートを調整することなどの方法で、沖縄に製造業が育たないようにし、基地がなければ自立できないような経済構造に仕立て上げようとしたのだ。
具体的には、基地内での建設工事に当たることを目的とした建設企業の育成、米軍組織や軍人への様々なサービスを提供するための企業の育成、米軍の軍人軍属へのサービスを提供する第三次産業の育成、さらには沖縄の学校を米軍の従業員としての優秀な人材を育てるための機関としようとまでした形跡がある。そして、いくつかの分野では、それが一定程度の成功を収めたことは否定できないのである。
③ ヤマトによる沖縄政策
ヤマトで安保反対闘争が盛り上がるのを見た米国は、佐藤政権を支えるため、同政権に大きな成果を与えようとした。すなわち、沖縄の施政権を返還したのである。それは、"コザ暴動"と呼ばれる事件の発生などに象徴される、沖縄県民の米軍支配に対する怒りの高まりの中で、米国が沖縄を丸ごと支配することに疲弊していたためでもあった。
だが、施政権の返還が行われても、彼らは基地を維持してゆくことは佐藤政権に約束させた。とはいえ、沖縄に日本国憲法が適用され、主権在民の原則、土地についての所有権絶対の原則が戻ったのであるから、基地を維持してゆくために、佐藤政権のとれる方法は多くはなかった。
すなわち、政府は、特別な法律を策定する一方で、沖縄にアメ玉をなめさせようとしたのである。
④ 沖縄の心は引き裂かれた
沖縄線を経験した沖縄県民の、反戦平和にかける思いはヤマトに比べると重いものがある。だが、今までに述べたような経緯で、すでに基地は存在しているのである。それがあることを前提とした経済構造ができあがっているのだ。なくても経済が発展するならない方が良い。しかし、今それがなくなったらどうなるかという"おそれ"、さらにはヤマトとも協調してゆくべきではないかという気持ち。この二つの間で、沖縄は引き裂かれているのである。
沖縄では、基地推進派といっても、たんにその後者が、前者よりも大きいというに過ぎないのである。なくても経済の発展が可能なら、ほとんどの沖縄県民は基地の存在を望んではいないのだ。
2013年に小池現東京都知事が、「沖縄の先生方が闘っているのは沖縄のメディア」と述べたことを受けて、自民党の国場幸之助衆議院議員(※1)が「(闘っているのは)沖縄のメディアじゃない。日本国民として安全保障を真剣に考えていただきたい。メディアうんぬんではなく、沖縄の問題でもなく、日本として自立した国家としてアメリカとの関係をいかにして構築していくか、最大限の共通認識として国防部会で持ってほしい」と訴えた(※2)ことを思い出そう。
※1 今年に入ってややスキャンダラスな事件を起こしているが、そのことはここでは問わない。
※2 2013年3月27日付け沖縄タイムス記事による。
エ ヤマトの基地反対派
一方、基地反対派についてはどうだろうか。ヤマトの基地反対派が米軍基地の存在に反対する理由は、明確であろう。一言で言えば"反戦平和"だ。国の安全保障は、外交上の話し合いや、人的・経済的な交流によってこそ実現されるべきであると考えているのだ。
軍事的な"威嚇"のみによっては、決して平和は実現しないと考えている。また、「国体」の安全と「国民」の安全は別であるとも認識している。先の大戦は、日本が「国体」を守ろうとして、「国民」を犠牲にしたという峻厳な歴史をみているからだ。
また、日本が自衛権を持つべきかどうかは争いがあるものの、憲法第9条を厳守するべきとの考えでは一致しているといってよい。
オ 沖縄の基地反対派
もちろん、沖縄の基地反対派もまた、反戦平和への願いは同じである。むしろその願いはヤマトより強いと言ってよい。何よりも地上戦を経験している人々の反戦への願いは、ヤマトよりもはるかに重いのである。
だが、沖縄の基地反対派には、もうひとつ大きな要素が入っているように思える。それは、ヤマトと米国による、沖縄への無知・無理解から発する不当な批判や、不当な扱いへの怒りが含まれていることであろう。
(3)ヤマトによる沖縄へのヘイト
ア 米軍基地の事故被害者へのヘイト
最近のことでも、宜野湾の保育園に米軍ヘリの部品が落下したときに、ヤマトの側から「自作自演だ」「そんなところに保育園を立てるのが悪い」などという中傷が行われた。あまりにも勝手な言い分である。ヘリの飛んでこないところに保育園を立てろというなら、保育園を立てる場所など宜野湾にはなくなってしまうだろう。
また、小学校にヘリの窓枠が落ちたときは、驚くべきことに「それで何人が死んだんだ」という声が発せられた。匿名の民間人によるネットでの発言ではない。自民党の国会議員で副内閣相(当時)という政府の要職にある人物が、国会で行った発言なのである。
この副内閣相は、1959年に米軍の戦闘機が沖縄県の石川市に墜落して、小学校の生徒11人と周辺の住民6人が亡くなった事件(※1)や、1965年に自宅の庭にいた棚原隆子さん(当時11歳)が米軍輸送機から投下されたトレーラで亡くなった事件のことを知っていたのだろうか(※2)。知っていて言ったのなら人間として許せない。また、知らなくて言っているなら、沖縄についてあまりにも無知である。この2つの事件は、沖縄県民なら誰でも知っていることなのだ。
※1 パイロットは脱出して無事だった。
※2 なお、ヤマトでも米軍機関連の主な事故として、1951年にB29が砂川村に墜落(消防隊員10名、住民5名が死亡/搭乗員は脱出して無事)、1955年に八王子市に墜落(住民5名及び操縦士1名死亡)、1964年に町田市で米軍戦闘機が墜落(住民4名死亡/パイロットはパラシュートで脱出)、1977年にファントムが横浜市に墜落(幼児2名死亡、後にさらに1名死亡/パイロットはパラシュートで脱出)などの事故が発生している。横浜の事故では、救助に向かった海上自衛隊のヘリが、事故現場の上空を素通りして米軍パイロットの救助に向かったことや、米軍軍人が事故現場でピースサインをしながら記念撮影をしていたことなどが問題となった。
この副内閣相の発言は、沖縄ばかりでなく、全国の亡くなった方や遺族に対するあまりにも冷酷な発言である。
さらに、沖縄で20歳の女性が殺されたときも、「夜の8時にウォーキングをしているのが悪い」という声があった。冗談ではない。これでは、沖縄県民が怒るのは当然であろう。
イ ヤマトの一部報道機関によるフェイク
ヤマトでは、普天間基地の返還問題について、詳細な知識を有する者は多くないと言ってよい。そこへもって"女子ニュース"や"桜チャンネル"などがフェイクや偏見を垂れ流し続けており、それが口コミ等で広がっているのだ。
これらのマスコミが我が国に与えている害悪は大きいといわなければならないだろう。彼らは、"憂国"を口にしつつ、実は我が国の国益を大きく損なっているのである。そして残念なことに、私自身の周囲にもいわゆる"ネトウヨ"に限らず、これらのフェイクを信じている者は多いのだ。
これでは、ヤマトが沖縄県民の反発を受けるのは当然である。
ウ 佐賀県民の言うことならきくのか
2015年に沖縄の負担軽減のため、オスプレイの"訓練"を佐賀県に移転するという話が出たことがある。ところが、同年10月29日に当時の中谷防衛相と山口佐賀県知事が協議した結果、訓練の移転を取り下げるということがあった。
沖縄タイムスはこの件について「沖縄では配備に反対する10万人規模の県民大会を開き、全首長・議長らによる政府要請をしても配備を強行する一方、本土では地元が反対すれば断念するという構図が鮮明になった」(※)と報じた。
※ 2015年10月30日沖縄タイムス記事
(4)日本政府等の各種選挙運動での傲慢さ
ア 嘘とごまかし、その場限りの約束
(ア)携帯電話料金引き下げ
今回の選挙でも、日本政府の傲慢さが随所にみられる。例えば佐喜真氏が公約として「携帯電話料金の4割削減」を掲げたことが、知事選の終盤近くになってネットで話題となった。「県知事にそんな権限はないのでは?」という当然の疑問からだ。
日刊ゲンダイ(※)の記事によると、佐喜真氏のこの公約の張本人は菅官房長官だという。また、同記事によると菅官房長官9月16日の街頭演説で「15分の演説のうち実に4分半を『携帯電話料金値下げ』の話に費やし」たともいう。
※ 2018年9月18日付け日刊ゲンダイ記事「沖縄県知事選 与党候補が掲げる「携帯料金値下げ」のナゾ」
もちろん、携帯電話の料金の引き下げが一知事の権限でできるわけもない。その場限りの嘘としかいいようがないのである。
(イ)宜野湾市長選でのディズニーリゾートの誘致
なお、似たような話は佐喜真氏の宜野湾市長選でもあった。佐喜真前市長は。市長選で「ディズニーリゾート誘致」を公約に掲げていたのである。同氏のWEBサイトには「佐喜真アツシ市長がオリエンタルランド社に働きかけ、政府から全面支援の約束を取り付けて一気に動き出しました」と書かれていた。
このときも、菅官房長官(当時・現総理)は選挙のときは「政府として全力で取り組んでいきたい」と記者会見で表明していた。ところが、選挙が終わると社民党からの質問主意書に対して内閣は「政府としてお答えする立場にない」と回答しているのだ。
毎日新聞の記事(※)には、このディズニーリゾートの誘致について、「実際は、『構想を最初に提案したのは菅氏』と政府関係者は明かす」とされている。すなわち、日本政府は、できるはずもないことを支援する候補者に公約させておき、選挙が終わると素知らぬ顔を決め込むのである。このぐらい沖縄県民をバカにした話もないだろう。
※ 2018年12月20日付毎日新聞記事
もちろん、ディズニーリゾートが沖縄に進出するかどうかは、民間企業が判断することである。一市長の権限で、民間企業に沖縄進出をさせることができるわけもない。ディズニーリゾートの誘致については、佐喜真氏が市長就任後は音沙汰もない。
(ウ)佐喜真氏の沖縄県民への "隠し事"
佐喜真氏もまた、選挙期間中、徹底して辺野古新基地隠しをしている。時事通信によると、「24日、那覇市内で記者団に、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に関し、『知事の立場でしっかり精査し、法令的な問題があれば、(埋め立て承認の)撤回もあり得る』と語った」(※)とされる。
※ 2018年8月24日時事通信記事
さすがにここまでくると、自民党の安倍総理から共産党の小池書記局長に至るまで、信用する者は誰もいないだろうが、不誠実と言われてもしかたがないだろう。佐喜真氏は、2017年の軍用地転用促進・基地問題協議会で普天間基地の県外移転を求める要望書に、宜野湾市長として反対したことを忘れたのだろうか。
さらに、佐喜真氏は日本会議の正式な会員だが(※1)、選挙期間中はそのことも隠していたようだ(※2)。隠さなければならないような団体に入っていながら、県民のための仕事などできるのだろうかと疑問を持たれても仕方がないだろう。
※1 少なくとも"2014年12月現在"と記された「日本会議地方議員連盟正会員名簿」に佐喜真淳宜野湾市長の名前がある。また、宜野湾市議会でも「私も日本会議に加盟している1人ではございますけれども、これからの行動につきましては日本会議が持つさまざまな政策、あるいは施策等々について吟味しながら、同意できるものに対してはやっていきたい」(市議会の議事録:下線強調は引用者)と述べている。
※2 2018年9月23日付け日刊ゲンダイ記事
イ 自民党・公明党による応援団
(ア)自民、公明などは大物を派遣
この選挙で自民党は、菅官房長官や二階俊博幹事長などの大物政治家のほか、石破議員や小泉議員など、無党派層に人気のある有力議員を送り込んだ。しかし、これらの応援団は、石破議員や小泉議員を含めて辺野古新基地については一言も触れていない。
石破氏は、2013年に幹事長として自民党の沖縄県連を移設容認へ方針転換させた経過がある。ヤマトでは基地反対派からも一定の人気のある人物だが、沖縄では基地反対派からあまりよく思われていないのも事実である。そのため、沖縄本島には行かなかった。これも沖縄県民を愚弄するような話である。
また、小泉議員に至っては、沖縄の県民所得の全国平均との格差改善の話が応援演説の内容のメインだったが、どのように格差を改善するのかの具体的な話は何もなかった。芸能ネタまで持ち出して、本来は佐喜真氏の味方であるはずの八幡和郎氏にまで「国際通りをシャンゼリゼみたいに出来るかもしれないとか、琉仏融合の料理が生まれるかもとかいうのは、ちょっと、わけがわからなかった」(※)と揶揄されている。
※ 八幡和郎「小泉進次郎が沖縄で強調したことと両候補の国際性」(2018年9月24日アゴラ記事)
また、公明党副代表の北側一雄衆院議員も、創価学会副会長の佐藤浩氏と沖縄県内を回った。このコンビは宜野湾市長選挙でも宜野湾市を訪れている。
さらに小池東京都知事も乗り込み、やや能天気にも「県民ファースト」とアジっておられるが、だったら普天間基地を東京で引き取れよという反発もあったようだ。
(イ)自民、公明などの応援団の効果は?
辺野古移転が重要だと思うなら、石破氏も沖縄本島へ行って、また小泉氏もだが、堂々と辺野古移転の重要性について語ればよい。選挙期間中には、そのことについて一言も語らず、仮に佐喜真氏が勝っていれば「沖縄県民の支持が得られた」と言って、辺野古新基地の建設を進めたのであろう。要は、沖縄県民をバカにしているのである。
故翁長前知事の樹子夫人は、「玉城デニーうまんちゅ大集会」において「たった140万の、1%の沖縄県民に、『オールジャパン』と称して、政府の権力をすべて行使して、私たち沖縄県民をまるで愚弄するように押しつぶそうとする。民意を押しつぶそうとする。何なんですか、これは?」と訴えている。
だが、結局のところ、自民党も公明党も創価学会も、基地反対派の結束を深めただけという気がしないでもない。
玉城知事が選挙期間中に「日本政府から、アメリカから沖縄を取り戻す」と言ったことの意味を、ヤマトの側はもっと真摯に考えるべきであろう。
2 安倍総理(当時)は"真摯に"沖縄県民の民意を無視する
(1)沖縄知事選後の安倍総理の発言
知事選における沖縄県民の意思表示を安倍総理(当時:以下役職は当時のもの)はどのように感じたのだろうか。朝日新聞(※)によると、沖縄知事選の結果を聴いた安倍総理は「しょうがないね」と電話で党幹部に伝えたとされる。沖縄県民の意思を「しょうがない」と言い捨てたのである。
※ 2018年9月30日付朝日新聞DIGITAL記事より
そして10月1日になると、記者団からの質問に答えて、「政府としては選挙の結果を真摯(しんし)に受け止め、沖縄の振興、そして基地負担の軽減に努めていく」(※)と述べた。
※ 2018年10月1日付朝日新聞DIGITAL記事より
また、菅官房長官は記者会見で、玉城氏が辺野古について国と協議したいとの意向を示していることについて「日程が合えばお会いしたい。時期はこだわらない」と述べた(※)とされる。
※ 2018年10月1日沖縄タイムスプラス記事より
しかし、安倍総理が"真摯"と言ってみても、誰も本気にはしないだろう。朝日新聞(※)によると、安倍総理の発言について共産党の小池書記局長は「安倍さんが『真摯に受け止める』と言う時は、右から左に聞き流す時なんですよ。『丁寧に説明する』って言う時は、同じことを何度も繰り返すということなんです」と述べたとされるが、確かにその通りである。
※ 2018年10月2日付朝日新聞DIGITAL記事より
(2)安倍総理は沖縄県民の意思を無視
そして、その後になると、自民党は、玉城知事に対して徹底抗戦の構えを示していく。
菅官房長官は1日の記者会見で、知事との会談には応じる構えを示したものの「早期に辺野古移設を実現したい」と述べた。また、小野寺防衛相は県の埋め立て承認の撤回に対して法的措置を取ることを確認した。
さらに、菅官房長官は10日の記者会見で、普天間基地の辺野古移設と在沖縄海兵隊のグアム移転の関係について「結果的にリンクしているのではないか」(※)と述べた。このような脅しともとれることを言うことが、沖縄県民の怒りを掻き立てるだけということが菅官房長官には理解できていないらしい。
※ 2018年10月10日付朝日新聞DIGITAL記事より
また、12日に安倍総理が玉城知事に会ったことは、前の知事に対する扱いから比較すれば評価はできるが、安倍総理は「辺野古移設を進める政府の立場は変わらない」とした。沖縄の民意は無視すると明言したわけである。
3 普天間基地を国外に移転することは国益にかなう
(1)そもそも普天間移転はなぜ始まり、誰が望んでいるのか
普天間移転について、日米両政府が合意したのは、1996年の4月12日のことである。そのきっかけとなったのは、米国軍人による幼女暴行事件であった。この卑劣な事件を受けて、沖縄県民の基地負担を減らすということから始まったはずなのである。
それが、いつのまにか変質してしまった。老朽化し、市街地の近くにあって使いにくい基地の代わりに、最新式の基地を日本の負担で建設して米軍にプレゼントしようという話になっているのだ。米国にとって、こんなありがたい話はないだろう。
しかも、その移転先は、負担が減るはずの沖縄なのである。沖縄にしてみれば、負担が固定されるだけの話である。
実を言えば、私が沖縄で赴任していた頃に受けた印象では、関係する行政機関も、普天間基地の名護移転はあまり熱心にやっていたわけではないように感じられた。ただでさえ、財政状況が苦しい中で、(たぶん安倍総理は認めないだろうが)実際に始めれば必要経費が際限なく膨らんで金食い虫になることが明らかな新基地建設など、誰も本気でやりたくはないのである。
しかも、沖縄県民から感謝されるようなことならまだしも、当時からすでに反対派が優勢だったのだ。当時から、辺野古移転は、沖縄県民と行政の意向を無視して、米国と日本の政府が政治主導で進めていたとしか、私には思えなかったのである。
(2)辺野古移転で最も利益を得るのはだれか
米軍兵士による幼女暴行事件がきっかけとなって始まった普天間基地の辺野古移転で、最も大きな利益を得るのは、皮肉なことに卑劣な事件を起こした米国の軍隊なのである。さらに言えば安倍総理は自己満足し、その名誉欲も満たされるだろう。また、建設業や基地へ施設を納入する業者も潤うかもしれない。
その一方で、馬鹿を見るのは、基地が固定化される沖縄県民と、膨大な税金を米軍のために使わされる日本国民である。
結局、安倍総理には、国益よりも右派としての信念を大切にするところがあるから、米国軍隊への貢献をしたいのであろう。そして、我が国のマスコミの右よりの部分や、安倍総理の御用学者・御用評論家は"国益"ではなく"政府益"もっと言えば"自民党益"しか考えないから、それを推し進めることが正義であるかという思考に陥るのだろう。
私は、ネトウヨは別として、もっと民族主義者や本来の右派は、辺野古新基地に怒るべきだと思うのだが、日本の右派は現政権にすり寄り、その現政権はアメリカにすり寄ることしか考えていないようだ。
だが、辺野古新基地の建設は、我が国にとっても利益になるとは到底思えないのである。
(3)普天間を国外に移転することは可能
ア 米国軍隊を海外移転することは難しくはない
安倍前総理と菅現総理は、もしかすると日本が主権国家だということを忘れているのかもしれないが、我が国が米軍に対して"出て行け"と言えば、米軍は出ていくしかないのである。どうも日本人は、これまでの状況が頭に沁みついていて、米国には日本に米軍基地を置く権利があるかのように思っているようだが、そのようなことはない。日本は、アメリカの植民地ではないのである。
もちろん、米国は、対抗手段としてなんらかの外交措置は取ってくるだろう。日米安保条約を破棄するか、米軍をすべて日本から撤退させるか、それとも貿易で日本に対して大きな関税をかけるか。
イ 安保条約は必要ではない
だが、日米安保条約や日本に米軍を置いていることで、利益を得ているのは、日本ではなく米国の方なのである。彼らは、朝鮮戦争やベトナム戦争を遂行するときに、日本の基地を兵站基地として利用してきたのである。現在も、彼らの世界戦略のために日本の基地を利用しているに過ぎない。それに対して日本は、"思いやり予算"として膨大な税金をつぎ込んでいるのが実態なのだ。
よく言われる"安保条約が片務条約だ"というのはその通りだが、右派の言うこととは異なり、日本の方が一方的に貢いでいる条約なのである。なくなったとしても日本にとってはどうということはないものなのだ。
本当に米軍が出ていけば、中国や北朝鮮に侮られると思うかもしれないが、米軍が出ていくまでもなく安倍総理は十分に侮られている。かえって、アメリカに対して自主独立路線をとる方が、侮られることはないだろう。
北朝鮮には、日本をミサイル攻撃する能力はあるかもしれないが、そもそもそんなことをしても意味はないだろう。また、日本に上陸攻撃する能力などない。実を言えば、これは中国も同じである。日本に対して上陸攻撃するだけの軍事力はないし、もしそんなことをすれば中国国内でクーデタが起きかねない。また、欧米各国との関係も完全に冷え込むだろう。資源も何もない日本攻め込んでみたところで、利益になることなどなにもないのである。
ウ 米国の報復としての経済制裁の可能性は?
また、米国が、日本に対して大きな関税をかけるなどの報復措置を取ることはあり得るが、もともと国際関係においては米軍基地とは関係なく何が起きるか分からないのである。
また、そのようなことをすれば、米国としても大きなダメージを受けるだろう。米国にとっても、今は日本の基地にはそれほどの価値は認めていないのである。在日米軍を引き上げろと言われたくらいで、そこまでするとは思えないのだ。まして、米国にとって普天間基地がひとつなくなったところで大したことではないのだ。
4 何をなすべきか
(1)沖縄に基地があることの意味を理解する必要がある
何よりも、ヤマトが考えなければならないのは、なぜ沖縄にこれほど広大な米軍基地があるのかである。そもそも日本政府が沖縄に押し付けてきたのである。
私自身は、米軍基地を他府県に分散するという考えには与しない。米軍基地は、日本には必要ないという立場だからだ。沖縄対他県という構造を作るべきではない。存在しているのは、国民対安倍政権という対立構造なのだ。ここを間違えてはならない。
根本は、沖縄の基地負担を減じるということであるが(私自身はなくすべきと思っている)、そのことによって国内に新たな火種を作るべきではない。だが、日本が日本全体のこととして沖縄の基地について考えなければならないと思っている。
(2)沖縄県民の意思を尊重するべきである
私自身は、日本政府はただちに、普天間基地の代替地なしの返還について、米国と協議に入るべきだと考えている。なぜなら沖縄県民がそれを選んだからである。
まず、考えるべきことは、沖縄県民は日本国民だということだ。そして、日本政府は日本国民の代表なのである。沖縄県民の明確な意思を無視することは許されないだろう。SACOの最終報告の普天間関連の部分は根本から見直しをされるべきである。
もし、沖縄の意思を無視し続けるようなら、我が国は国内に深刻な対立を生むことになるだろう。それは、我が国の"国益"にも反するし、我が国の民主主義を否定することにもなるからだ。
繰り返しになるが、玉城知事の「日本政府から、アメリカから沖縄を取り戻す」という決意を、政府はもっと重く受け止めるべきだろう。