SNSと社会的少数派


2 国内におけるSNSを活用した政治的な発言の状況

(1)政党による活用状況

ア 政権与党による活用状況

SNSに限らないネット全体についても、自民党は膨大な資金力にものを言わせて他党を圧倒した。具体的には、女性向けのファッション誌「ViVi」とコラボした広告企画は社会問題にまでなり、YAHOOのトップページの広告窓には選挙の期間中、ほぼ常に安倍総理が出ていた。また、グノシーも自民党とコラボレーションしたライブ動画配信を行っている。

自民党が、ネットにおいてそれらの動画の配信・作成に膨大なコストをかけていたであろうことは想像に難くない。参議院選挙の期間中、ネットの世界も他の在来型メディアと同様、資金力のある社会的な強者によって、宣伝の場として活用されていたのである。

イ 野党による活用状況

(ア)全般的な状況

次に野党によるネットの活用について検討しよう。ここでは、共産党を例にとる。同党は野党としての立場が明確で、かつ総合的・全般的な政策を立案しており、歴史のある党だからである。

当然のことであるが、同党は共産党公式ツイッターアカウント共産党公式フェイスブックアカウントを持っている。また、YouTubeにも共産党チャンネルがあることは言うまでもない。

(イ)Twitterの利用状況

その他、国会議員、地方議員などもTwitterとFacebookのアカウントを持っている。これはどの政党でも同じだろうが、党そのもののフォロワー数よりも、個々の議員のフォロワー数の方が多い傾向にある。

2019年参院選の当時、小池晃氏のツイッターは10万を超えるフォロワーがあった(※)。当時の現職総理大臣だった安倍氏が140万程度だったことは別として、後に総理大臣になる菅官房長官が7万弱、麻生元総理(事務所)が3万強、最大野党立憲民主党の枝野代表が13万程度、公明党の石田幸四郎氏に至って千に満たない数4だったから、かなり健闘していると言ってよいだろう。

※ 2021年5月時点で17万を超えている。因みに現職総理の菅氏は42万弱である。フォロワー数の多いのは河野太郎氏の232万であるが、日本国内の公式アカウント数5000万人のうち約20人に1人がフォローしていることになり、あまりにもばかばかしい数である。河野氏は、少しでも批判的なアカウントはブロックする傾向があり、フォロワーもアルバイトではないかとの説がある。

(ウ)YouTubeの利用状況

SNSと言えば、文字情報中心のSNSは、TwitterとFacebookである。Twitterは多くの人に情報を伝える面では優れているが、許される文字数の制限から、政策や主張をきちんと伝えて、投票活動につなげることはやや適さない面がある。また、フェイスブックは反対派や無関心層に情報が伝わりにくい面がある。しかも、世界的には利用者数はきわめて多いが、我が国においては、やや低調という印象を受ける。

政策や主張を分かりやすく伝えるには、YouTubeが最も適しているかもしれない。

同党は、YouTubeでは、アニメで政策を訴えるカスミとヒロタツ 年金どうなるの?公園の巻カスミとヒロタツ 財源はあるよ公園の巻などをシリーズで配信している。内容的には、短時間で分かりやすい内容となっている。

お堅い印象がある共産党だが、YouTubeには。WE ARE 共産党YA!YA!YA! 野党共闘などというアニメーションの女性が歌う動画なども配信しており、参院選終了の時点で3万から4万回視聴されていた。

失礼ながら、これらの動画は自民党と違って、金にあかして造られたというものではないが、分かりやすい説明をしようという努力の跡がみられる。同党としてもかなりの力を入れているようだ。

(2)個人による政治的な意見のSNSの発信状況

ア ワラしがみ

次に、個人で政治的な主張を発信している例を挙げよう。個人と言っても芸能人であれば、かなりの注目を受けることができる。わが国では、芸能人が政治的発言をするとバッシングを受けることがあるが、これはバッシングをする方がおかしい。芸能人も国民であるから、我が国の政治のあり方に発言をすることは当然のことであろう

私が、SNSによる個人による政治的な発言の例として注目しているものの一つが、ワラしがみ氏である。例えば日本経済に止めを刺す消費税10%に一言年金制度の限界を認めたお偉いさんに一言など、短時間の動画で素人に理解させる能力は、かなり高レベルのものである。

この動画の作者は、後に関連書籍を出している。いかにも、ふざけたようなスタイルで画面で叫んでいるが、コメントを見ると視聴者は正論だと納得できているのである。しかも、それぞれ、1か月で21万回、2か月で33万回視聴されているのだ。個人の発信であっても、大きな影響を与える可能性を示しているチャンネルだといえよう。

イ みーちゃんの政治チャンネル

また、みーちゃんの政治チャンネルは、フォロワー数はまだ数千程度ではあるが、YouTubeのみーちゃんの政治チャンネルに投稿されている動画の完成度は驚くほど高い。

まず、動画のみやすさが他の動画に比較して群を抜いている。アバターは3Dで、動きも自然である。バックに流れる音楽もプロ並みのものが用いられている。また、字幕の入れ方も優れている。

また、何よりも短時間で、素人に分かりやすく説明する技術は秀逸である。例えば最低賃金未満約7割!?法務省のまとめ方どうなの?【入管法改正案】は、はっきり言って、既存のメディアの説明よりも分かりやすい。また、「教育勅語再評価」のデタラメ!?など、内容的にも説明方法としてもかなり高レベルのものである。

ウ うちなーありんくりんTV

沖縄の状況を訴えるものとして、うちなーありんくりんTVがある。こちらは実写による講義形式だが、かなり詳しい説明があり、説得力のある内容となっている。

一例として辺野古移設で普天間返還の嘘は、数千回視聴されているが、きわめて説得力のある内容である。このチャンネルは、辺野古基地問題を中心に取り上げているが、最近は消費税の嘘と実態など全国レベルの問題もアップしている。豊富な資料を用いて、数字を加工して分かりやすく説明している。

エ その他

その他にも、YouTubeでは、ANZU KINOは、生活保護バッシングを批判して生活委保護制度の重要性を訴えるなどの内容となっている。様々なデータを上げながら、たんたんと説明しているが、かなり説得性のある内容となっている。

また、動画の数は少ないが、ネトウヨ兄のデマを正す妹は、原発問題や労働問題などを取り上げて、一般の若い男性に向けて分かりやすい動画をアップしている。

これらは、個人(又は数人のグループかもしれない)が作成している動画だと思われる。内容的には、気楽に視聴できる時間の枠内で、資料を用いてかなり説得性のある説明をしている。国民の新しい政治参加のスタイルとして注目すべきものと言えよう。