9条改悪より交流の促進を


2 自衛隊の意欲を高めるという嘘

(1)安倍総理の改憲の理由

ア 自衛隊に対する信頼は戦闘能力に対してではない

安倍総理は2017年5月3日の「憲法改正に関する首相メッセージ」において次のように述べておられる。

例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命懸けで24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が、今なお存在しています。「自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。

私は少なくとも、私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます。

もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います。

 2017年05月03日の安倍総理のメッセージより

しかしながら、これは支離滅裂と言ってもよい非論理的な内容である。

イ 自衛隊に対する信頼は戦闘能力に対してではない

そもそも自衛隊に対する国民の信頼がアップしたのは災害救助を原因としているというのが一般的な見方である。それは、戦力を保持することの違憲論=自衛隊の合憲性とは無関係なことである。

自衛隊が合憲だというなら憲法を変える必要はないし、違憲だというならまず違憲の状態を修正すべきであろう。

憲法9条違反との批判を受けないようにしたいというのであれば、武器を捨てて戦闘集団から“国際救助隊”にでも組織替えするのが筋であろう。法律違反の現状があるという意見があるから法律を変えろと言うのは筋違いである。まず、法律に違反している現状を変えるべきであろう。

そうすれば、憲法違反の状態もなくなるし、自衛官の士気も高まるのではなかろうか。

ウ 情緒的な理由での改憲は民主主義に反する

憲法9条は、我が国が第二次世界大戦の戦火と侵略行為を反省して国是としてきた平和国家の基本理念である。その基本理念の下で、我が国は経済的な発展をしてきたのである。それをこのような情緒的な理由で改悪するなど、民主主義の骨幹に対する挑戦である

 自民党は民主主義を「自民の自民による自民のための政治」と考えていると喝破した人がいたが、安倍総理はさらに進んで「自分の自分による自分のための政治」とでも考えてでもいるのだろうか。

だが、自民党が過半数の議員を得ているのは小選挙区制という欠陥制度によるものであり、自民党の得票率は35%程度に過ぎないのである(時事通信2019年7月記事「参院選2019・主な政党の比例得票率」参照)。

自民党の三鷹市議会議員が、ある市民団体に対して「日本の主権者は 安倍晋三総理である」と言い放った(YouTube動画「え~ 主権者は安倍晋三 ? Good Bye バビロン 三鷹自民党」より)。噴飯ものではあるが、笑い事ではないだろう。今の自民党政権は選挙で多数派を取ったのだからなにをやってもよいと思っているのではないだろうか。


(2)緊急事態条項はなんのためにあるのか

ア 緊急事態条項とは何か

また、自民党の「改憲4項目」には「緊急事態条項」が入っているのである。9条改悪が、たんなる情緒的な理由だけでないことは明らかであろう。この「緊急事態条項」は、①行政権限を一時的に強化し、緊急政令で法律同様のルールを定めること、②選挙を行わずに議員の任期を延長できることを憲法で定めるべきだとする。

麻生副総理は「ナチの手口に学べ」と言っているが、ワイマール憲法化のドイツでナチの独裁を許した大きな要因がこの「緊急事態条項」なのである。これこそ麻生太郎氏がナチに学んだ結果であると私は考えている。

 2013年08月01日時事通信記事「ナチスの手口に学べば」、NEWSポストセブン記事「半藤一利氏が気づいた麻生氏の『ナチス手口学べ』発言の真意」等参照

要は、国会を停止し、行政(=総理)が立法を行えるようにするというものである。分かりやすく言えば、国民の権利を制限し、義務を課すことは現行憲法下では立法によらねばならないが、これを安倍総理が独断で行うことができるようにするというものなのだ。

繰り返すが、ネトウヨなみの安倍総理や、「ナチに学べ」と言っている麻生副総理が、勝手に国民の権利を制限したり、義務を課したりすることができるようになるということなのである。

イ 緊急事態条項は戦争目的以外に考えられない

このようなものがなぜ必要なのであろうか。災害対策のためであれば「災害対策基本法」「大規模地震対策特別措置法」「原子力災害対策特別措置法」「災害救助法」などがすでに存在しているのである。

むしろ、自民党は災害対策には全く無関心なのである。西日本豪雨に際して安倍総理などが「赤坂自民亭」で宴会を行い、その写真をSNSにアップした有力党員がいたことは記憶に新しい。2019年の台風19号に際しては、野党から国会で予算委員会を開かなくてもよいから台風対策に力を入れた方が良いのではないのかと助言されたにもかかわらず、かえって予算委員会の時間を増やすと答えたほどなのである。

政府が災害対策のために国会を休みたいと言ったにもかかわらず野党が反対したということではなく逆なのである。要するに、災害対策のために「緊急事態」が発生するなどとは考えていないのである。

ではなぜ「緊急事態条項」が必要なのであろうか。それは、政府が米国のために戦争をしたいと考えたときに、野党や国民の批判を抑えるためとしか考えられないのである。